A診療所の院長は、職員の離職問題もさることながら、全体的にミーティング時に活発な意見が出てこない理由の1つに対価の問題があると考え、定額の金額を大幅に引き上げ、かつ1時間以内に終了させるよう職員に指示した。

 1時間以内に終了させるよう指示を受けた職員からは、ミーティングの開催前にお互いに参加者に宿題を課して準備を整えておくといったような改善が見られ、ダラダラすることなく効率的に進めることができるようになった。同時に、支給単価の引き上げが行われたことによって、職員の潜在的な不満が解消されたのか、生き生きとした意見も多く出るようになり、本来のミーティング開催の目的が達成できるようになった。

ミーティングが盛り上がらない理由
 結局のところ、「ミーティングを効率的に進められないのは職員に問題がある」という考え方は誤っている場合があり、対価の低さなどの理由により職員が「ミーティングが軽視されている」と受け止め、それが低調な運用につながっている可能性がある。特に、別途残業代が支払われていないような場合には、「やっていられない」という感情を芽生えさせてしまうものであり、中長期的にみても決してプラスに働くものでもない。

 仮に1時間で完結させるのであれば、A診療所のように定額の金額を大幅に引き上げて、全ての職員において本来計算された1時間分の割増賃金以上の金額で設定するという方法が考えられる。管理の都合上、全員一律の方が分かりやすいが、本来の賃金額に職員間で差が生じる場合は、先の計算結果により職種ごとで金額単価を分けるという発想があってもよいだろう。もっとも、この手当が割増賃金か否か、ということで後々トラブルにならないように、賃金規程などにおいて1時間分の割増賃金相当である旨は明記しておきたいところだ。

 A診療所では現在、ミーティングにおいて決まることが決まれば10分で帰ってもよいというルールにしているが、職員はそれに向けてさらに効率化を進めるべく、勤務時間中の患者の待ち時間にお互いに考え方を整理するなど、組織風土が変わりつつある。

 以上のように、職員の働き方のみならず患者の満足度の向上にもつながるミーティングは、長い時間を掛けて実施すればよいというものではなく、短時間で効率的に行うことが職員の満足度向上につながり、かつ未払い残業代を含めたコンプライアンス面のリスクを減らすことにもなるため、運用面の改善を行っていきたいところである。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治(社会保険労務士法人名南経営・株式会社名南経営コンサルティング)●はっとり えいじ氏。社会保険労務士、医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。『日経ヘルスケア』に「実践! 院長のための人事・労務入門」を連載中。