トラブルの経緯

 医療従事者は、患者さんの命をお預かりするという大きな責任を担っています。ちょっとした不注意やほんの少しの油断が、取り返しのつかない事態を招くことがありますので、常に集中して注意深くお仕事をされていることでしょう。

 しかし、医業は精神的にも肉体的にも過酷な業務ですから、忙しく日々を過ごしている中、いつの間にかモチベーションが低下してしまったということもあるのではないでしょうか。

 今回は、診療機能を拡充したほか、退職したベテラン職員の代わりに入職した職員が思うような働きをしてくれなかったこともあり、スタッフたちの負荷が増え、職場の空気が悪化したという事例をご紹介します。

高めの給与で看護師を採用したものの…
 このクリニックは、お二人とも医師であるご夫妻が経営されていて、内科だけではなく外科の看板も掲げています。リハビリテーション、各種検査、予防接種、往診なども行っており、町のクリニックとしては幅広い診療内容で、勤務歴の長い3人の常勤看護師の他、非常勤職員15人ほどの体制で運営。事務長は医師である奥様が兼任されていました。

 私は、当時はこちらのクリニックに関わっておらず、以下は院長先生からお聞きした話です。

 数年前、奥様が新規に消化器内視鏡検査を始めたタイミングで、ベテラン常勤看護師のうちの1人が家庭の事情から退職することが決まりました。その頃からクリニック内の空気が変化してきたというのです。

 すぐに採用活動を行ったのですが、結局、退職日までに看護師を採用することはできませんでした。やむを得ず1人欠員の状態で運営していましたが、当然に職員の負担感は増大していきました。

 求人条件を引き上げつつ採用活動を続けたものの、なかなか人材が確保できない中、大病院で長い勤務歴のある看護師の応募があったので、かなり高い水準の給与を提示して採用を決定しました。

 ところが、しばらく看護師2人で仕事を回していたこともあり、彼女たちと新人看護師との連携が思うようにいきません。また、新人看護師にはコミュニケーション不足などに起因するミスも多く、院長や奥様の目から見て給与に見合う仕事ぶりとは感じられなかったそうです。指導をしても状況はあまり変わりませんでした。

 それと時を同じくして、看護や事務の非常勤職員の勤務態度が思わしくなくなってきました。患者さんへの対応が以前のような丁寧さに欠けてきたり、突発的な休みが増えたりしてきたのです。また、新規に始めた内視鏡検査に伴い、新しく覚えなくてはならない仕事が増えたわけですが、これに対する拒否反応も全体的に見られました。