経営者としては、突然、労基署の職員がやって来て、年次有給休暇の取得状況の改善についての指導を受ければ、およそ駆け込んだ職員が誰であるのかが分かるものだ。「犯人探し」をした後に、「経営情報を許可なく漏えいさせた」ことを理由に解雇を含めた制裁処分を科したいと言う経営者もいるが、この対応は極めて危険であると考えておかなければならない。

 まず、何よりも労働基準法という法律は、労働者保護という考えによって成立している法律であることから、労働者本位で考えると、実は経営者側に問題があったということもケースによっては当然あり得る。加えて、労働基準法第104条では、労基署への申告に伴って解雇などを行うことを禁止している。制裁処分を行ったことによって再度労基署に駆け込まれ、重ねて指導をされたという医療機関の話を耳にすることもある。

 確かに、行政機関に対するものであるとはいえ、自院の経営情報を外部に伝えるのは労使関係を崩す行為として制裁処分を考えたい気持ちは分からないでもない。しかし、本来、経営情報とは取引先情報や患者情報などを指し、年次有給休暇が取得できるのか否かなどを経営情報と捉えるのには無理があると考えなければならない。
 
 労基署に駆け込まれてしまうケースでは、労使間のコミュニケーションが十分ではなかったという例が少なくない。経営者としては、職員の年次有給休暇の取得によって業務が十分に回らないのではないかという懸念も当然あったであろうし、そうした考えがあるのであれば、事前にしっかりと時間を取って話し合うべきだっただろう。

表1 労基署への駆け込みの原因となりやすい労務管理上の問題