事情が把握できれば、時期をずらしてくれるなどの協力も期待できるだろうが、それ以前に、そもそも労働環境の整備は、労働力確保や定着に当たって不可欠な要素となってきている。事実、最近は人材確保が思うように進まないことで、事業を縮小せざるを得ないという医療機関や福祉施設が多数生じてきており、人の問題は大きな経営課題ともなってきている。

 特に小規模な診療所においては、少数でも職員が欠けてしまうと改めて組織を再構築していかなければならず、その繰り返しに疲弊している経営者も少なくない。職員が労基署に駆け込んだことに感情が左右されることなく、中長期的な視野で経営のあり方、特に「人の使い方」を再考する時期に差し掛かっていると捉え、内部のコミュニケーションのあり方や職員定着のあり方を見直すなど、前向きな対応を取りたいところだ。

 なお、労基署が交付する書類には、「是正勧告書」と「指導票」の2種類がある。「是正勧告書」は労働基準関連法に違反した行為に対して、罰則の適用を受ける前に自主的な改善を促す目的で交付されるものだ。是正をしなければ刑事罰が適用されることがあるため、是正勧告の対応を無視することがないように注意をしたいところである。

 他方で「指導票」は、法違反ではないものの改善が望ましい事項が記載される。例えば、年次有給休暇の取得率が低いから引き上げるように指導するといった内容だ。もちろん、法違反の事項ではないため、何かペナルティーが科せられることはないが、無視をして相手の印象を悪くしても何のメリットもなく、可能な範囲内で改善へとつなげておいた方が望ましい。この場合に、どの程度の水準まで達成していくのかというレベル感の問題もあることから、顧問の社会保険労務士などに相談をしながら対応していくことをお勧めしたい。

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。