自院のレベルアップを図るために、優秀なリーダーを新たに迎えることを検討している院長からの相談は少なくない。本来は、院長や自院の理念に共感してくれ、ともに同じ方向を目指していけるようなリーダーを院内で育成できれば望ましいのだが、なかなか時間も取れないばかりか、院長自身が育成のスキルを持ち合わせていないこともある。そのため、既に実績がある他院のリーダー層の職員を迎え入れることも現実的な選択肢となる。

 しかし、他院でリーダーを務め、仕事も人間的にも信頼できる職員が自院に勤務してくれるなら…と期待して採用したにもかかわらず、新任リーダーが院長の期待を裏切る事態を招いてしまうこともある。

トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 郊外の住宅地で開業する内科・消化器科のあるクリニックでは、院長と看護職員6人(うちパート職員3人)、事務・受付職員3人で診療を行っている。開業後しばらくは職員数も少なく、院長も職員たちも日々の診療に追われて、技術・スキル面以外の教育には時間を割けない状態が続いていた。

 だが、パート職員の看護師の退職が決まり、これを機に現場全体の業務・指導管理を任せられるリーダーの採用を検討。知り合いの業者からの情報で、近隣の総合病院で約6年間の師長経験を持つ40代半ばの看護師Aを、新たに設けた役職の看護師長(部門統括)として採用することとなった。

 Aは、温和な性格で落ち着いた印象があり、責任感も強くて仕事も堅実にこなすという評判で、院長も望んでいた人材だと見込んで迎えた。しかし、時間が経過するにつれて、いろいろな問題が顕在化するに至った。

「会議の様子を見てほしい」と職員から申し出
 看護職員はA以下5人、同院での勤務年数は約2年から8年程度と幅があったが、公立病院で師長を経験していたとあって、誰もがAを新たなリーダーとして好意的に迎え入れた。実際に日常業務の中での指導は丁寧だったこともあり、早い時期に信頼を得ることができたようにみえて、院長としても良い人材を得られたことに満足していたところだった。

 しかし、Aの入職から半年ほどが経過した頃、看護職員のうち正職員2人が院長に対し、「一度、部門の会議に院長も参加してもらえないか」と申し出てきた。理由を尋ねると、「A師長との会議のやり取りを見ていてほしい」とのこと。自分がいると意見交換も委縮するのではないかという懸念もあったが、上下間がうまくいっているようにみえても、何か不安があるのかもしれないと思い、院長は次回会議の出席を了解した。