実務面に目を向けてみると、全ての職員が一斉に年次有給休暇を取得してしまっては業務が成立しないなどといったこともあり得る。だが経営者側に認められているのは、「時季変更権」という、あくまでも別の時季に変更してもらう権利のみに留まり、取得させないのは違法ということになる。

 今回のケースは、退職日前にまとめて取得するというケースであるが、実務面では既に退職日が確定していることから、それ以降に取得日をずらしてもらうことはできず、本人の申請を受理せざるを得ない、というのがルールとなる。

 これを強引に取得させないといった取り扱いをすると、本人が労働基準監督署に駆け込み、労働基準監督署から指導を受ける可能性が高い。ケースによっては年次有給休暇以外の労務問題、例えば、適正に時間外の割増賃金が支払われていないなどといった点を指導されることもあり得るため、慎重に対処したい。

有休の計画的付与も選択肢に
 こうした点について、「労働者の権利ばかりがまかり通るとは腑に落ちない」という考えを持つことは分からないでもないが、多少の運用方法を変えることによってそのリスクを最小限に抑制することもできるため、日ごろの労務管理では、あらかじめ一工夫しておきたい。

 例えば、退職時にまとめて全ての年次有給休暇を取得されることに抵抗感があるのであれば、日常的に職員の年次有給休暇の取得を奨励する方法も考えられる。場合によっては、計画的付与という考え方を導入することもできる。

 計画的付与とは、労働基準法第39条でも認められている制度で、労使間であらかじめ協定を締結(労働基準監督署への提出は不要)することによって、特定の日において年次有給休暇を取得してもらうというものである。付与されている日数のうち5日を超える部分がその対象となる。

 よって、20労働日の年次有給休暇が付与されているのであれば、15日分はこうした制度を適用させることができるため、運用次第では退職時にまとめて取得される日数を大幅に減らすことにもなる。なお、年次有給休暇を多く取得させることに対して、経営者が抵抗感を持つことも当然考えられるが、むしろ定着率が高まったり、人材確保の際に他の医療機関との優位性を出すこともできるため、デメリットばかりではない。