また、退職に当たって業務マニュアルの作成をルール化することも1つの方法として考えられる。結局のところ、まとめて年次有給休暇を取得されて困るのは、きちんと引き継ぎをしない、中途半端で何がどうなっているのか分からない、という状態であることが大半であると思う。逆に、こうした点が日常的にきちんとできている職員であれば、年次有給休暇をまとめて取得されることに対するイライラの感情もそれほど高まらないのではないかと考えられる。

 業務マニュアルの作成は業務命令とし、業務の標準化を目的に退職時には作成をするものといったルールであることを周知しておきたい。なお、業務マニュアルの内容に関して、後任の人がそれを見て仕事ができるようなレベルを求めるのは自然なことであるが、重箱の隅をつつくような、いじめに近い対応はしないように心掛けたいところである。

在職中の有休買い上げは違法
 なお、医療機関によっては、年次有給休暇を買い上げて、まとめて休ませないようにするというところもあるが、実はこの方法は違法であるため行うべきではない。旧労働省の通知で、「年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である」(1955年11月30日 基収第4718号)とされている。

 ただし、法律で禁止されているのは在職中における買い上げで、退職後に残っていた年次有給休暇を買い上げることまで制限はしていない。そのため、医療機関によっては、残された年次有給休暇の日数に一定金額を乗じて、それを退職金あるいは功労金として取り扱っているところがあるが、こうした運用も、退職時にまとめて年次有給休暇を取得されにくくなる制度としても考えることができる。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。