トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 A整形外科診療所には事務部門、看護部門、そしてリハビリ部門の3つの部門が存在する。それぞれの部門は、部門内のまとまりが良いと感じているが、残念ながら部門間では大きな壁が存在していた。悪く言えば、部門間の派閥対立のようなものが存在していたのだ。

 リハビリ職は「看護職はこちらの事情が分かっていない」と不満を述べ、事務職は「看護職やリハビリ職は雑用をこちらに押し付けてくる」と言う。看護師は「待ち時間が長いのは受付・会計の効率が悪いからでは」と陰で口にするなど、とにかく風通しが悪かった。

 そのため、部門間のコミュニケーションは活発とはいえない状況だった。先日も患者から、「何で毎回、同じことを言わせるのよ! あなたたち、同じクリニックの職員でしょ。どうして話が伝わっていないの!」と、連携不足に起因する伝達ミスに関してお叱りを受けたが、こうしたトラブルは一度や二度ではない。

 院長はそうした状況を把握しており、全職種が参加するミーティングを開催して連携の必要性を説くなどしてきたが、目立った効果は表れなかった。患者はただでさえ痛みや待ち時間などでイライラしているのに、自分たちの体制などの問題によってそうした感情を増幅させている状況であり、やがては患者離れが加速してしまうのではないか——。院長は不安を募らせていた。

今回の教訓

 A整形外科診療所のように部門間が対立している医療機関や福祉施設は少なくない。「対立」とまではいかないケースでも、お互いの部門間に壁があることによって情報の伝達が不十分となり、結果として患者に迷惑を掛けてしまうことになっている。

 今回のケースのように、患者に同じことを二度言わせてしまう程度ならまだしも、それぞれの部門が患者に対して全く異なったことを伝えて、「どうしたらよいのか」と患者を混乱させてしまうことにもなりかねない。そうなると、当然患者としては嫌な気分になり、近隣に新しい同じ科の診療所が開設されたら、そちらに流れていってしまう可能性も否定できない。

 また、それぞれ別の部門が患者に対して違ったことを伝え、患者の混乱を防ぐために関係者調整などをしていると、本来行わなくてもよい仕事が増えてしまい、無駄な残業時間が発生することもあるかもしれない。これでは業務が非効率で、生産性を下げることになるので、経営面においてもマイナスだ。