時には、ささいな人間関係のトラブルが発端となって、職員が退職を申し出るまでに至るケースもある。院長としては、優秀な人材を手放すデメリットや新たに採用活動を行わなければならない負担はできるだけ避けたいとし、こじれてしまった人間関係の修復を図り、何とか退職を思いとどまってもらおうとするのが通常だ。

 そうした局面で事実関係を調査すると、きっかけとなったトラブルの背景に、潜在的な別の問題が存在していることがある。今回は、上司と部下のトラブルの原因探求の過程で、思わぬ課題が判明した事例を紹介する。

トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 市街地近郊で開業したAクリニックは、内科と腎臓内科を標榜し、地域に根付く診療方針を掲げて10年余りが経過した。人工透析も行っており、現在看護部門17人(うちパート4人)のほか臨床工学技士などのコメディカル、事務職員を合わせて30人を超える職員を抱えている。

 日々の業務に追われるある日、院長は、外来看護師が退職を申し出ており、慰留にも応じてくれないとの報告を看護師長から受けた。本人から直接話を聞く必要があると感じた院長は、早速面談することとした。

 看護師によると、現場リーダーである外来主任の指導が最近厳しく、部下のミスを叱責することもたびたびで、自分だけではなく周囲も主任の機嫌を損ねないように委縮しながら業務を行う状態が続いているという。今の状態では気持ちよく働き続けることは難しいと思うし、自分から主任に対して改善を求めることもできないので退職したい、という意向だった。

 院長は、外来主任が業務・指導面ともに優秀で、部下からも信頼されているリーダーであると見ていたため、こうした状況に陥っているとは思いもよらず、まず主任と話してみることを本人に約束して退職の再考を促した。

 その後、院長は外来主任と複数回にわたって面談を行ったほか、職場のスタッフからもヒアリングをして状況を把握。その結果、外来主任が若干厳しい口調で指導することはあるものの、指導の内容や要求レベル自体が厳しすぎるということはなく、主任も言葉遣いなどを反省して改めることを約束。退職を申し出た看護師もこれに納得し、引き続き勤務することになった。

 ところが、これで一件落着とはならず新たな問題が浮き彫りになった。主任らへのヒアリングの過程で、実は、看護部門のトップである看護師長の振る舞いや管理者スキルに問題があることが判明したのだ。