今回の教訓

 相手が部下であっても、他人に指摘や指導を行うことを躊躇してしまうケースは多い。それに自分が嫌われたくないという感情や、適切な指導方法が分からない(または習得してきていない)という事情も相まって、看護師長自身が自分の課題を感じていながら、複雑な問題解決を避けてしまっているように感じられた。

 そこで院長は、まず院長と部門管理者などの上層部で行う会議の定期開催を徹底し、各リーダーと院長が直接やり取りするだけではなく、会議を通じて院内に生じている問題と解決方針を共有する仕組みを整えた。さらに看護師長との個別面談の機会を増やし、外来主任との接触回数と同じかそれ以上の頻度で看護師長の考えを聞く機会を設けることとした。

 この面談の場は、院内の状況はどうか、課題をどう解決したいか、今後の予防策はどうするか、潜在的なトラブルは見受けられないかといった点について看護師長から話を聞く機会として位置付け、意思疎通を密接にし、院長らとより充実したコミュニケーションを図るように働きかけることとした。今後もこうしたサイクルを実践し、小さいものも含め様々な問題の芽に早く気付けるような仕組みを考えているところである。

組織変更により主任を現場のトップに
 さらに、この程度の規模の診療所になると、院長のワントップの組織体系では全ての状況を把握することは困難であるため、組織構成の見直しも行うことにした。院内で最も多い職員数を抱え、かつ他部門との連携の中心となるのが看護部門であることから、その管理者である看護師長をクリニック全体の業務管理の要として位置付け、外来主任を看護部門の現場のトップとする体制に移行した。

 同時に院長は、看護師長個人に対する指導も強化。外部に依頼してリーダー研修を実施してもらうこととした。院長とのコミュニケーションが深まり、またリーダー研修を通じて管理職としてのマネジメントの在り方を学んだことで、看護師長の言動に自信のようなものが感じられるようになった。

 管理職にとっては、経験を重ねても不安な点が多々あることが当然であり、クリニックであれば院長との意思疎通を密にすることが何よりも重要になる。トップが「何かあったら支える」という姿勢を示していくことが重要であり、そのことが院長と管理職、さらには管理職とスタッフの信頼関係の構築につながると考えられる。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
齊藤規子(株式会社吉岡経営センター)●さいとう のりこ氏。北海道大学大学院法学研究科修士課程修了後、法律事務所勤務を経て(株)吉岡経営センター(札幌市中央区)入社。人事労務、組織管理、経営改善など医療機関を中心に経営コンサルティングを手掛けている。認定登録医業経営コンサルタント。