トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 東北地方のF整形外科クリニックでは、かねてレントゲン撮影業務を担当してもらえる放射線技師を求めていた。患者来院数はそれほど多いとはいえないものの、医師がレントゲン撮影業務を行うことが非効率である上、患者が数人まとめて来院した際の待ち時間が長くなることが問題となっていたためだ。

 求人を出して1カ月くらいが経過したところで、30歳代後半の男性の診療放射線技師A男が応募してきた。面接をしてみると、経験豊富でそれなりに受け答えもしっかりしており、院長は即時に採用を決めた。

 入職して数カ月が経過し、A男は業務にも慣れ、そつなくこなしていたが、院長にとって1つ気にかかることがあった。

 クリニックの男性は院長を除くとA男だけであるため、特別に更衣室と休憩室を兼ねた部屋を放射線技師室として与えていた。この部屋は、診察室から離れた場所にあり、院長や他のスタッフの目が日常的に行き届かないためか、次第に部屋の中に専門雑誌や郵便物、はてはペットボトルなどが雑然と置かれたままになっていった。院長は、独身男性だから仕方がないのかと思いつつ、軽い調子で「部屋が散らかっているよ」と伝え、しばらく様子を見ることにした。

 しばらくして、放射線技師室は片付くどころか、さらに物が乱雑に置かれ、食べ終わったお弁当のケースや、スナック菓子の空き袋などもそのままになっていた。また、看護師のB子が言うには、A男はレントゲン撮影業務がない時は、横になってスマホをいじったり、雑誌を読んだりしながら、サボっているとのことだった。その割に、定時になっても帰るどころか、夜の9時くらいまで残って最後に退出していた。

「労基署に相談に行きますよ!」
 院長は、さすがにA男のことをいぶかるようになったが、大の男のことだし、いちいち自分が注意することでもあるまいと思った。片付けをするようにB子から伝えてもらうことにし、結局そのまま、自分は注意することなく放置した。

 それからおよそ3カ月後、ちょうどA男が体調不良で欠勤をした日の診療終了時に、受付のC子から、「A男のお母さんから電話がかかっています」と言われ、院長は電話に出た。「息子は毎日帰りが遅く、体調を崩してしまった。お宅のクリニックの労務管理はどうなっているんですか。こんなことが続くようなら、労働基準監督署に相談に行きますよ!」。A男の母親は、多少取り乱した様子でこうまくし立てた。