トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 今回紹介するのは消化器外科の医師が開設した西日本のクリニックの事例だ。院長は開業前、テナント物件を探していたところ、勤務先の病院から車で30分ほどの場所に候補物件を見つけた。そこで、その地域に住んでいる勤務先の同僚看護師Aさん(40歳代前半)に周辺の医療機関や住民の受診状況を調べてもらった。

 Aさんが言うには、宅地開発が進み人口も増加しているのに、まだ医療機関が少ないとのこと。駐車場が確保できる利点もあり、コンサルタントに診療圏調査を依頼した上で開業を決定した。

 そういう縁もあって、Aさんにクリニックで働いてもらいたいと思った院長は、本人に協力を要請。Aさんはこれに同意し、病院を退職することになった。ただ、夜間勤務などがない分、年収を病院と同条件にすることは難しい。病院勤務時より少ない年収でスタートすることで合意した。一緒に仕事をしていた同僚だったので、開業準備はスムーズに進んだ。年齢的にもリーダーとして働いてもらうにはちょうど良く、一緒に働く職員にはAさんの指示に従うように促した。

 患者の少ない時期にどのように増患対策をするか、どうすればリピーターとなってもらえるかなど、院長はAさんによく相談し、本人もそれに応えようとした。またAさんは、患者との接し方や仕事に対する姿勢などに関して、他の職員に厳しかった。そういう点も含め院長には、頼りになる存在となっていった。その働きに対して院長は、年収が病院勤務時より少ないことも考慮し、昇給幅を他の職員よりもかなり大きくした。

「何も、そこまで求めなくても……」
 私はこのころ、非常勤の事務長としてクリニックの運営に関わるようになっていた。ある日のこと、Aさんから、事務の常勤職員Bさん(30歳代前半)について相談を受けた。Bさんの勤務態度に良くない部分があるので注意してほしいとのこと。内容を確認すると何か気に入らないことがあったようで、それがきっかけとなったように感じた。

 Bさんを呼んで内容を確認しながら注意すると、本人もAさんから良く思われていないことが分かっていたようで、最近急にAさんの接し方が変わったとのこと。ちょっとした行き違いが原因だと考えられた。その後Bさんは、注意しながら業務をこなしているようであったが、AさんのBさんへの批判は収まることがなく、居辛くなったBさんは退職することになった。院長は、スタッフが変われば落ち着くだろうと考えていた。

 ところが、その後も他の職員に対するAさんの批判と不満が続くようになった。仕事ができない、ミスが多い、気が利かない——。Aさんはしきりに同僚への不満を口にする。内容を聞いてみると、「何も、そこまで求めなくても……」と思うことも少なくなかった。

 厳しく指導するばかりでなく、どうすれば良くなるかを話し合ったり努力を認める姿勢も大切だと伝えたが、批判された職員とは折り合いが悪くなる一方であり、退職者が相次いだ。