いつの間にか、Aさんに気に入られなければ長く勤務できないような組織になってしまい、職員の入れ替わりが多く、入職しても3〜6カ月くらいしかもたない。このままではスタッフが安定せず、補充も容易ではなくなる。上手にスタッフを使うように話してほしいと私から院長にお願いし、院長もAさんに諭したところ、Aさんは退職したいと院長に申し出た。自分の理解者であると思っていた院長から指導されたことが堪えたようだ。

「慰留するに違いない」と踏んでいた?
 このような場合、本人が退職を申し出ることはよくあり、Aさんがそうなることはある程度想像していた。Aさんがそうだったのかは分からないが、人によっては、「私がいなければ職場が回らない。辞めさせるはずがなく、慰留するに違いない」と踏んで退職を申し出てくることもある。

 院長が診療しやすいように動くことができて、患者とのコミュニケーションやフォローもできるスタッフの存在は重要だ。ただ一方で、そうした柱になる職員が他の職員に高いレベルを求め、厳しく当たりすぎることもある。それが原因で退職者が続出している場合は、その原因のスタッフが辞めることで組織が安定することも多い。

 診療や職員同士の連携が安定すると患者の信頼度も高まり、口コミにつながる。一方、何らかの理由で職員の入れ替え(1年以内)が重なると内部に安定しない理由があるのではないかと勘繰られる。職員の入れ替えが多い診療所は、患者数が伸び悩む傾向がある。短期間の退職では、引き継ぎも十分できないことが多く、業務の流れもなかなか確立できずに通常の事務処理でさえスムーズに進まない。

同僚の昇給、賞与にも口を出すように
 Aさんの他の職員への対応を見れば、リーダーとしての資質に欠ける部分があるし、今後も改まりそうにない。私は、今後の職員のことを考えると、Aさんの退職を受け入れた方がよいのではないかと助言した。

 しかし院長は、診療最優先ということでAさんを慰留することにした。「病院を辞めて来てもらったのだから」という気兼ねもあったようだ。Aさんはごねた。結局、給与アップを前提に慰留することになった。

 以来、Aさんには昇給や賞与で他のスタッフとは異なる特別待遇が続き、周りのスタッフについてはAさんが気に入らなければ批判され、退職することがパターン化した。はたから見れば、院長よりAさんの意向が優先されているように見えた。

 医療法人設立を申請する際、院長から「Aさんを理事にしては」との話が出たが、そうなると発言力がさらに強くなりAさんが院長をコントロールしようとするだろうと予想されるので反対した。

 Aさんは、スタッフの昇給や賞与などにも口を出すようになっていった。その後私は、院長との方向性の違いもあって事務長職を辞した。人づてに聞いたところでは、Aさんの振る舞いはその後も変わっていないようだった。