今回の教訓

 今回の事例で院長は、A子の雇用に当たり、職務経験などの点で不安を感じつつも、容姿端麗であることを理由に採用に踏み切った。スタッフを雇う際に容姿を重視し、他に気になる部分があっても目をつぶって採用する例は時々見られるが、それが結果的に、後々のトラブルにつながることもある。採用面接は複数の面接官で実施し、男性院長であれば女性も加えておきたい。「同性の目」が入ると、候補者を違った視点から見ることも可能になる。

 また院長は、職員たちとLINEのやり取りをしていて、そこに残したメッセージが自らを追い詰める結果となってしまった。職員と業務上のやり取りをLINEやメールで行うケースは増えており、それ自体は否定されるものではないが、運用には注意が必要だ。診療所によっては、LINEなどでのやり取りを業務上の連絡に限定し、その他の仕事の悩みなどの相談は口頭で伝えてもらうようにしているケースもある。LINEなどの限られた文面では真意が伝わりにくいこともあり、相談を要するものは口頭で直接やり取りするというのは一つの考え方だろう。

 組織の管理者が、職員の問題ある行動に対して断固とした態度を取れないと、結果的に、真面目に働いている他のスタッフのモチベーションが下がったり離職を招くことがある。今回紹介したケースでは、A子の勤務態度に辟易とした先輩のB子が退職を申し出ており、まさんそんな事例といえる。

 改善を辛抱強く待つことも大切だが、その間に、周囲のスタッフが不満を募らせていることは少なくない。問題のあるスタッフへの指導を継続するとともに、同僚に対するフォローも忘れないようにしたい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
加藤深雪(特定社会保険労務士、株式会社第一経理)●かとう みゆき氏。日本女子大人間社会学部卒業後、2003年第一経理入社。企業や医療機関の人事労務コンサルティングを手掛け、中小企業大学校講師や保険医団体の顧問社会保険労務士も務める。