トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 開業して4年目の内科クリニックで、パート職員が退職することになった。

 外来患者数は1日平均50人を超え順調に推移していた。パート職員の退職は配偶者の転勤によるもので、もちろん止めようもない。院長は直ちに後任の採用のための準備を始めた。

 診療所は駅から徒歩数分の便利な距離にあるが、もともとスタッフの集まりにくい地域であり、これまでも採用に時間を要していた。まずはハローワークで募集を開始。退職予定者と同様の勤務、具体的には平日の午前・午後とも勤務可能で土曜日は最低月1回勤務できることを条件とした。

 その後、ハローワークから何度か候補者に関する問い合わせがあったが、収入の希望額が合わなかったり勤務できる曜日が限定されていたりと、なかなか条件が合致しなかった。

 あまり労働条件の縛りが多ければ、他のスタッフに影響が出るので採用に踏み切れない。だが、しばらくすると応募が途絶え、このままでは採用できないと考えた院長はフリーペーパーとインターネットの募集広告を利用。すると40代後半から60代前半まで8人の応募があった。

パートも一通りの仕事を覚えてもらわないと…
 未経験者でも、クリニックのスタッフの指導によりスキルを身に付けられそうであれば採用可能だ。電子カルテなどパソコン操作が中心となるので、そういう業務に携わっていた人材であればなお良い。

 結局、応募者の中から、内科で6カ月のパート勤務経験があるという40代後半の女性を採用した。お子さんは高校生で勤務時間が遅くなっても問題なく、土曜も月2回出勤できるとのことだった。

 雇用契約書の業務内容は「受付、会計、医療事務、院内・トイレ清掃および院長の指示する業務」。パートスタッフも、常勤者の休みの際などにいろいろとカバーしてもらう局面も出てくるので、業務は一通りできるようになってもらわなければならない。日々の締めや会計の金額合わせなどは覚えてもらう必要がある。小規模診療所では、消耗品の発注や在庫チェックなど医事以外の業務も加わる。院長は、経験者ということもあり、半年あれば十分戦力になれるだろうと考えていた。

「前の職場ではやっていません」
 まずは受付業務から開始した。前職で経験しているが、ブランクが長く忘れていることもある。診療所によってやり方が異なる点もあるので、経験者を採用する際にはその点に配慮が必要だ。パートの場合、毎日勤務ではないので、できるようになるまでに相応の時間を要することが多い。

 しばらくして、業務を指導していたAさん(30代前半)より相談があった。業務を教えていると「ここまでやらないといけないんですか?」と聞いてくるので、「誰が休んでも問題ないように皆できるようにしています」と答えたところ、「前の職場ではこんな業務は担当していませんでした」と不満そうな顔をしていたとのことだった。院長は、「少し様子をみましょう」と話し、気になることがあったら報告するように伝えた。

 その後少し慣れてきたところで、院長は会計の締めを覚えてもらうように指示。発注や在庫チェックの方法についても覚えてもらうようにお願いした。すると数日後、指導担当のAさんより相談があった。本人が、「私はパートなのに責任が持てません」と話しているという。この段階で筆者が関わることになり、本人に業務内容に対する考え方を確認することにした。