時間と費用をかけた採用活動によって、期待してクリニックに迎えた職員であっても、入職当時からの印象が少しずつ変化し、他のスタッフとうまくいかない様子が目につくようになるケースがある。こうした場合、院長はその職員の上席に当たるリーダーを介して現状を確認し、改善を図ろうと考えるのが一般的だろう。また、必要であれば、院長自身が面談を行って解決策を探る選択肢もあるが、院長の直接の指導が必ずしも奏功しないこともある。

トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 整形外科のAクリニックは開業して7年余りが経過し、誠意を込めた診療を心がける院長の人柄が信頼を集めるなど、地域社会にすっかり浸透。外来はリハビリを含めて常時込み合う状況が続いていた。

 看護、リハビリ、事務部門いずれの職員も頑張ってくれていたが、業務の忙しさに職員たちは疲弊しており、このままでは燃え尽きてしまい、退職者が出ることも想定されたため、院長は新たな職員を採用することとした。

 間もなくして、院長の知人から男性の作業療法士Bを紹介された。通勤に便利な医療機関への転職を希望しており、ちょうど転職活動中だという。院長が面談すると、若く温厚で真面目な性格だという印象を受けたため、正式に採用して勤務開始となった。

 入職当初、Bは新たな環境に早く慣れて周囲の力になりたいと話していた。スタッフたちからは、本人が積極的に周囲とコミュニケーションを取っている様子を伝え聞いていたため、早期に戦力として成長してくれるものと期待していた。

院長の指導の後、行動に異変が
 ところが、入職2カ月目に入った頃、休憩中に部署内の輪の中から離れた場所に1人でいるBの姿を院長がたびたび見かけるようになった。少し注意深く様子をうかがうようにしてみると、他の職員との間で業務上の連絡以外の会話がほとんど見られないことに気づいた。

 そこで院長はBを呼んで「周囲の人たちと、もっとコミュニケーションを取ってみたらどうか。話しにくい印象を持たれているのでは?」と伝えてみた。院長としては小さなアドバイス程度の認識でいたのだが、このことが引き金となって、Bの行動に異変が現れるようになった。

 1人で過ごすことが多かったBだったが、業務にかかわらず、待合室やリハ室など様々な場所に足を運んでは、他の職員の姿をじっと見ている時間が増えたのである。そのため、リハ部門だけでなく、他の部署の職員までもがBを怖がるようになり、それまで以上にBを敬遠するようになってしまった。