このままでは業務へのマイナスの影響が深刻なものになると感じた院長は、改めてBを呼び出し、個別に面談することとした。さらに、面談前にはBの上司であるリハ主任をはじめ、他部署の複数の職員から状況やBに対する印象などをヒアリングして、できるだけ正確な事実を把握した上で、Bの心情や考えを聞く必要があると考えた。
リハ主任からは、「打ち解けようという気持ちだったとは思うが、プライベートに関する質問や話題を繰り返し投げかけるので、特に女性職員が抵抗感を持ったようで、少しずつ距離を置くようになっていた」「話すときの距離が近く、長く接するのが息苦しかった」といった話があり、そうしたBの言動が背景にあったことが分かった。
「誰が院長に告げ口したんですか?」
リハ主任によると、Bが他の職員の言動をじっと見ている様子が伝わると、業務以外での関わりを避ける傾向が強くなったとのことで、他の職員からも同様のコメントが聞かれた。院長は自分がBと話してみると伝え、院内の雰囲気が壊れないように気遣ったのだが、一方で紹介してくれた知人に、Bのかつての仕事ぶりや人柄を尋ねてみた。すると、「仕事はよくやってくれていたようだ。同僚と積極的にコミュニケーションを取るタイプではなかったようだが……」との回答。若干の不安を覚えながら、面談の日を迎えた。
Bは面談の冒頭から、「誰が院長に告げ口したんですか?」と尋ねてきた。不思議に思った院長が理由を聞くと、「院長が私に『周囲と話すように』と言った後から、急にみんなが自分を避けるようになったんです。誰かが院長に、私のことが嫌だと言ったのではないですか?」とのこと。
院長は、たまたま自分が見かけた際に感じたことをBに伝えたまでで、特段誰からもBに関する話は聞いていないと伝えると、若干不満そうな様子で、「周囲が私の悪口を言っているのではないかと思って、しばらく監視している」とも話した。
一方的に席を立ち面談終了
院長は、プライベートに関する話題が苦手な人もいること、親しみを持つのは必要なことだが、良好なコミュニケーションには一定の距離感も大切だと諭すと、Bは「自分は請われて入職したはずなのに、こんな思いをするのはおかしい」と不服そうに答えた。院長がたまらず「自分にとっては、どの職員も同じように大切な仲間として考えている。誰かを特別に扱うことはないし、遠ざけることもしない」と伝えると、Bはしばらく無言だったが、「考えさせてください」と一方的に席を立ち、そのまま面談は終了してしまった。
院長は、採用面接で受けた印象とは違って、思いのほかBのプライドが高く、自分が快く受け入れられる存在だと自信を持っていた様子に戸惑ったというのが正直なところだろう。周囲に溶け込めるきっかけづくりになればとの思いから言葉をかけたのだが、Bはそれをネガティブに捉えてしまった上、自分自身の振る舞いが周囲を遠ざけていたことに気づいていなかった。院長は、せっかく採用した職員であるし、何とか気持ちを切り替えて頑張ってほしいと望んだ。