Illustration:ソリマチアキラ

 調剤報酬改定が来るたびに「今回は厳しい」と言い続けてきた。我ながらオオカミ少年のようだと思うが、決して嘘ではなく、本当に厳しくなっている。薬局経営者のほとんどは、ボクと同じように憂鬱な気分になっているだろう。

 実際、これを書いている今も、調剤基本料に関わる、いわゆる大型門前の定義が変わるという情報が流れてきた。応需処方箋枚数が月4000枚弱の店舗を抱える当社にとっては大打撃となりそうだ。プラス改定といっても、これまで以上に汗を流さなければ改定前と同じ点数を確保できないことは目に見えている。「薬局は儲け過ぎだっただけで、適性な評価に近づけている」と言われて、これまで以上に働かないと同じ報酬が得られないなんて、ひどすぎないか。

 思い返せば、2016年度改定でも大変な思いをした。実際に16年の収益はかつてないほど落ち込んだが、薬局の皆の努力のおかげで、17年に入ってやっと回復したばかり。まるで賽(さい)の河原の石積みのようだ。

 いっそのこと、やめてしまおうか……。家族が寝静まった夜、独り熱燗をちびちび飲みながら、そんな思いがよぎった。

 やめる……。ん? そうだ! やめてしまえばいいんだ! ! もちろん、やめるのは薬局経営ではない。やめるべきは、改定のたびに右往左往することだ。改定への対応はベテラン担当部長に委ねているし、そもそもボクが思い悩もうが頭をひねろうが、算定要件は何一つ変わらない。では、ボクは何をなすべきか。

 社長たるもの、建設的なことに頭を使うべきだ。そもそも当社の使命は、薬剤師がその専門性を生かして地域に貢献すること。主役は、薬局で働く薬剤師とそれを支えるスタッフ。だったら、ボクの仕事は薬剤師やスタッフが働きやすい環境を整えることじゃないか。

 皆が充実した日々を過ごせる環境なら、職場の雰囲気も良くなるだろう。夏休みなど長期休暇は当然のことながら、育児・介護休暇を取りやすくして、フレキシブルな働き方ができるような仕組みをつくれば、仕事と家庭の両立に悩んで辞めていく社員は減るだろう。

 空前の薬剤師不足の昨今、当社も薬剤師不足に悩まされている。苦労してやっと採用しても、一方で辞めていく薬剤師がいて、足りない状況は変わらない。そのため薬剤師の採用経費や派遣薬剤師の人件費がかさんでいる。

 待てよ、逆の発想をしよう。辞める薬剤師が減れば、派遣薬剤師を雇う経費が要らなくなり、採用経費も抑えることができるじゃないか。高騰する派遣薬剤師の人件費分で、調剤報酬改定のマイナス分をカバーできるかも。

 全国の薬局経営者に告ぐ。「厳しい」という言葉は封印しようじゃないか。ネガティブなことを言うのをやめて、ポジティブに考えようではないか。

 トップが苦虫をかみ潰したような顔をして「厳しい、厳しい」とつぶやき、お上が決めた条件を満たすことに躍起になっているだけの会社に、誰が魅力を感じるだろう。断言しよう、調剤報酬改定に振り回されているだけでは、企業としての成長はない! ! 働き方改革、薬剤師の生涯教育、薬局の機能強化や別事業への展開など、やれることはたくさんあるはずだ。

 ふと気が付くと徳利が空になっていた。ちょっぴり酔いも手伝って、大胆な発想にとりつかれた夜だった。(長作屋)