トラブルの経緯

イラスト:畠中 美幸

 東海地方にあるA診療所は、消化器内科を中心に内科全般の診療を行っており、患者数は順調に推移していた。

 財務面で大きな問題はなかったのだが、院長はしばらく前から気になっていることがあった。備品の発注に際し、コピー用紙の発注頻度が高くなっているような気がしていたのだ。この間発注したばかりと思っていたら、もう残りが少なくなっている。そんなことが何度かあり、発注頻度を正確に調べてみることにした。

 すると、1年前と比して倍以上の頻度で用紙を発注していることが分かった。患者数は1年前とそれほど変わらず、業務内容が大きく変わったわけでもないのに、用紙の使用頻度が高くなっているのはおかしい。もしかしたら、職員が持ち出したり、何かの用途に使っているのかもしれない——。そんな疑念を抱いたが、職員を疑っているようなことは口にしたくなかったので、あえて黙っていた。

 院長は診察中、コピー機から離れた場所にいるため、使用状況を確認することができない。どうしたものかと思案していたところ、ある日偶然、事務スタッフが座る椅子の近くのごみ箱に、コピーに失敗した用紙が何枚か捨てられているのを目にした。

 そこには、地元小学校のPTA関係の内容が記載されていた。その学校のPTAと医院とは何ら関係がないが、事務職員のパートタイマーのB子がPTAの役員を務めていることを院長は知っていた。そこで、B子が利用したのではないかと思っていたところ、案の定、昼の休憩時間中に、B子がコピー機で大量に無断印刷をしているのを見つけた。B子は業務と関係がないPTA関係の資料を、会合のたびに大量印刷し、関係者に配布していたようである。

「私だけ叱られるのは不公平です」

 院長がB子を呼び出して注意をしたところ、B子は不服そうな表情で「私用のコピーはみんなやっているから、問題ないと思っていたんです」と反論してきた。「そういう問題ではなく、今はあなたに注意をしている」と続けると「それなら私だけではなく、みんなにも注意をしてください。私だけ叱られるのは不公平です」と言われてしまった。

 院長としては、今後気をつけてくれればよい、という考えで注意をしたのであるが、開き直られ、素直さが感じられない対応をされると、「こんな職員には辞めてもらった方がよいのではないか」と思ってしまった。とはいえ、B子が戦力になっていることは間違いなく、辞められると業務全体が回らなくなる。そもそも、この程度の問題で辞めさせるわけにもいかないだろう。院長はどうしたらよいか思案に暮れている。

今回の教訓

 診療所では、患者の健康保険証をコピーするなど、日常的にコピー機を使用する。最近は、電子化が進んできたことでペーパーレスを実現する診療所も増えてきているが、それでも、何かを複写するためにコピー機はしばしば使用するものである。

 A診療所のような院内設備の私的利用の問題は、残念ながら実に多くの診療所で見られる。本人からすれば、わざわざコンビニエンスストアに足を運んで1枚10円という費用を払うのではなく、職場でコピー機を利用すればお金を払わずに大量に印刷できるということで、ついつい私的利用をしてしまうようである。