Illustration:ソリマチアキラ

 「良性なので、問題ありませんよ」

 社長を続けるには健康第一。ボクは毎年、誕生日に人間ドックを受けることにしている。その人間ドックで今年、便潜血を指摘され、精査のためクリニックで大腸内視鏡検査を受けた。するとS状結腸にポリープが見付かり、すぐに病理検査に回された。

 実は、大腸ポリープは過去にも経験があり、そのときは良性だった。今回も大丈夫だろうと思いつつ、それなりにドキドキして検査結果を待った。「悪性だったらどうしよう」と思いながら診察室に入ったボクに向けて、医師は開口一番、冒頭のフレーズを発した。ボクはホッと胸をなでおろし、「ありがとうございました」と言いながら腰を浮かせた。しかし医師は、内視鏡の画像をボクに見せながら言葉を続けた。「ポリープを摘出した部位は、きちんと止血できていますから安心してください」。はい。

 「ポリープがあると聞いて、心配されたと思いますが、どうして問題ないのかを一緒に確認しておきましょう」。「は、はい」と椅子に座り直すボクに、医師は、病理医が作成した病理検査報告書の写しを差し出した。

 「内視鏡でS状結腸に直径2mmのポリープが見付かり、病理組織検査をしたところ、大腸腺腫と分かりました」。は、はい。「腺腫というと、言葉は怖いのですが、良性の腫瘍という意味です」。ふむふむ、なるほど。

 「ポリープというのは、隆起という意味です。ポリープ、つまり胃や腸の粘膜が隆起したものは、腫瘍性と非腫瘍性に分けられますが、腫瘍性のものには良性と悪性があります。良性の腫瘍、つまり腺腫ですね。これが10mm程度になると、2割程度が悪性に変わる可能性があることが、学会などで報告されています。しかし、あなたの腫瘍はまだ2mm程度ですので、悪性に変わるのはまだ先です」。なるほど、なるほど。

 「ポリープは摘出しましたので、次は3年後にまた検査しましょう」。えっ、3年?そんなに放っておいて大丈夫なの?

 「ご心配ですか。では言葉を変えますね。次は3年以内に来てください。1年後でも構いません」。一言も発していないのに、ボクの心を読んで、まさに痒い所に手が届く説明が展開された。

 ボクが受診したのはゴールデンウイーク明けで、クリニックはいつも以上に混んでいた。それなのに「安心」と「大丈夫」を伝えるために、言葉を尽くして、丁寧に説明してくれた。なんてすごい医師なんだ!! ボクはすっかり感激して「ご丁寧に説明いただき、安心して帰れます。ありがとうございました」と感謝の意を伝えた。そんなボクに、医師は「では、また3年以内に」と、爽やかな笑顔を投げ掛けた。その笑顔がとどめとなり、ボクはこの医師に魅了されて、診察室を後にした。パタン。

 ドアが閉まった途端に、ハタと思った。待てよ、あの先生、ここでは非常勤みたいだから、実は大学病院の医師なのかも。ってことは将来、開業するかもしれない。 何とかお近づきになれるチャンスはないだろうか。あ、3年以内ならいつでも来ていいと言ってたな、いや、今すぐ戻って名刺を置いてこようか。

 あ〜あ、1人の患者としてあんなに感激したにもかかわらず、ボクの社長としての顔が、純粋な感動の邪魔をする。一度、ボクの職業病も診てもらった方がいいのかも……。 (長作屋)