Illustration:ソリマチアキラ

 え? ええ? えええええー?! どうして? どうして?? ボクは社長なのに!?

 先日、とてもショックなことがあった。大勢の前で、ボクは社員からものすごい勢いで怒鳴られたのだ。

 昨年M&Aした薬局の元オーナーは、古き良き時代の経営者で、売り上げ予算もなければ人件費や固定費の管理もしていなかった。この厳しい時代、そのままでは会社がひっくり返る。そこで本社で数字を把握している担当部長に予算を組ませ、年始に薬局に持っていき、10数人のスタッフを集めて発表した。昨年のままでは完全に赤字なので、収入を少しだけ多めに計上してあった。

 昨年の数字と今年の予算の内訳などを示しながらボクは、「このままでは経営的に厳しい。でも、やったことに対する報酬をきちんと算定して、シフトを工夫するなどして人件費を少し抑えれば、経営的に健全になる。大前提として、一人ひとりが患者のために良い医療を提供すれば、地域に貢献できる薬局に絶対なれる」と説明し、「大丈夫、いい薬局になるよ!」と励ました。

 その途端だった。そろそろ還暦を迎える男性薬剤師Kがボクにかみついた。「社長の予算の根拠は何か、なぜ大丈夫なのか?」と聞いてくる。え? 昨年、一昨年の数字を見れば大体の予測はつくでしょ、と心の中で思ったが、それを言葉にする前に、Kは「医者の処方が明日から突然変わるかもしれないじゃないか! 統計的にあり得ない! いい加減な数字を適当に積み上げて、予算などと言うな!」と声を荒らげた。

 そういえば、Kは前職の製薬会社でデータ解析を行う部署に在籍していたと聞いた。なるほど、大学病院とその配下の病院の処方が、一斉に他社製品に代わるという経験をしたことがあるんだな……。そんなことを思っている間も、Kは怒鳴りまくっている。

 自慢じゃないが、ボクは医師や看護師長に怒鳴られるのには慣れている。しかし、自分の会社の社員に、大勢の前で怒鳴られたのは初めてだ。何かモノが言いたいなら、言う場面と言い方というものがあるだろうが、と思いながらも、大人なボクは、その場をなんとか収め、会議を終えた。途中で何度も「いい加減にしろ、出ていけっ!」と喉元まで出掛かったのはナイショ。

 ボクには、全社員がずっと安心して安定した生活が送れるようにと思う気持ちがある。そのために一緒に頑張ろうと言っているのに、どうしてあのような態度になるのか……。たくさんの修羅場をくぐり抜けてきたボクはディベートなら絶対に負けないが、あの剣幕で感情的に怒鳴られると、反論のしようがない。結果、怒鳴られっ放しの“カッコ悪い社長さん”になってしまったこともショックの一因だった。ボクは常にカッコいい社長さんでいたいのに……。

 薬局を出るときに、パソコンに向かっているKに、ボクは「今度、統計を教えてね、勉強するからさ」と、他のスタッフにも聞こえるように声を掛けた。当の本人は「あ、はあ」と煮え切らない。でも皆がボクの方を見て微笑んでくれた。「社長、大変だったね」というねぎらいの微笑みだった。皆は分かってくれていたんだ……。少しだけ救われた気持ちになった。

 それにしてもKめ。覚えてろっ! いつかやり返してやる!!(長作屋)