Illustration:ソリマチアキラ

 これほど長い棒がよく入るものだ。ヒトの鼻は案外、奥深い——。と、咳をこらえつつ。そう、ボクはこのたび、自費でPCR検査を受けたのだ。

 ボクには、故郷の高齢者施設に入居している母がいる。毎月のように実家に戻り、会いに行っていたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、会えない状況が続いている。春のお彼岸には、施設から「(家族も含めて)面会は一切禁止」と通知が来た。そして8月に入ってお盆の帰省を見込んでか、再度、施設から通知が来た。そこには、県内在住の家族はエントランスでガラス越しの面会が可能だが、県外在住者は一切面会禁止、「施設内立ち入りもご遠慮ください」と書かれていた。

 母は95歳を超え、認知症がみられるが、ボクに会うのをいつも楽しみにしてくれている。春のお彼岸の時には少しの間、我慢すればまた会えるようになるだろうと思っていたので、おとなしく施設の指示に従った。しかし、ちょっとやそっとでは収束しそうにない。本当の意味での収束までには、10年ほどかかるといった話を聞く。その頃には、ボクの母はこの世にきっといないだろう。その間、面会禁止を続けるつもりなのだろうか。高齢者施設でのクラスター発生を心配する気持ちも分かるが、そろそろ安全に配慮しながら面会する方法を考えていくべきではないだろうか。

 そんなことを思いながら、施設長に「それは誰が決めたのですか」と聞いてみた。すると「施設のスタッフ皆で」と言う。どうやら感染症専門医や、施設担当医のアドバイスを受けているわけではなさそうだ。ガラス越しであれば、県外在住者であろうと県内在住者であろうと入居者への感染リスクはないはずだ。県外在住者は一切面会禁止というのはなぜかと問うてみたが、明快な答えが得られない。つい「県外在住者だけはダメだというのは、ハラスメントじゃないですか!」と食って掛かってしまった。腹の中では、「一体、何ハラスメントなんだ?」と思いながらも……。そして、畳みかけるように「じゃあ、PCR検査が陰性なら、問題ないでしょう?」と言ってみた。すると施設長は、しどろもどろになりながら「そりゃPCR検査が陰性であれば、お会いいただいても問題ありません。でもPCR検査は、受けたくても受けられませんよね」と言い出した。え?陰性なら会ってもいいの?

 ボクが「自費なら受けられますよ」と言うと、「そうなのですか!さすが、薬局の専門家の方々には色々と情報が入ってくるんですねえ」と感心しながら言う。「いやいや、テレビのニュースでも流れていますから」とボク。といったボクと施設長とのやりとりによって、この施設には「PCR検査で陰性の者は、直接入居者に会ってもいい」というルールができてしまった。

 そんな経緯で、ボクはPCR検査を自費で受けることとなり、無事、陰性の結果が出た。施設長は、「直接会ってもいい」と言ったが、本当にそれでいいとも思えない。PCR検査の感度は7割程度だと聞く。3割程度は陽性であっても陰性になるということだ。万が一にも施設の方々に迷惑が掛からないように、県内在住の家族と同様に、エントランスでガラス越しに会うことにしよう。それでも顔が見られるのはうれしい。こういうやり取りは、「勝たないけれど負けない」が大切なのだ。(長作屋)