Illustration:ソリマチアキラ

 ボクには、夫婦で地域医療にバリバリ取り組むN先生という友人がいる。処方箋のやり取りは一切ない、純粋な(?)飲み仲間だ。ボクの母が夏に脱水で入院したことを話したところ、「うちのサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に連れてきなよ」と言ってくれた。

 母は、1カ月ほど入院したが、経口摂取ができず中心静脈栄養法となった。寝たきりで、話し掛けても「うん」とか「いや」などがせいぜいだ。それでもN先生は「いいケアを受ければ良くなる可能性がある」と確信を持って言う。そこで退院を機に思い切ってN先生が運営する施設に入居させることにした。

 車で母を施設に連れていき、ベッドに寝かせて一息ついた頃、N先生が「長作屋さん、時間ある?」と聞いてきた。「あるよ」と答えた途端、N先生はスタッフに「長作屋さんのケアカンファするから、皆を集めて」と指示。その一言で、看護師、ケアマネジャー、ヘルパー、管理栄養士、リハスタッフなど、7、8人がダーッと集まってきた。

 1人ずつ挨拶をしてくれたが、それぞれが「お母さんにもう一度、口から食べてもらいたいです」「しばらく寝ていて拘縮があるようなので、少しずつほぐしていきたいです」など、母の状況を把握した上で、職種ごとの医療・介護に対する思いを、伝えてきた。

 その時点でボクは完全に圧倒されていたのだが、その後のカンファがまた圧巻だった。N先生が「既往歴と現病歴は?」と言うと、看護師がメモを見ながらと疾患と状態を話す。診療情報提供書に加えて、入院していた病院に事前に確認して、より詳しく把握していた。

 その後、ケアの目標と、そのために各職種がすべきことを明確にしていった。まず「急性期病院にいたので、刺激が足りていないはず。できるだけ皆で声掛けをしていきましょう」とN先生。その上で、「デイサービスに行けるようにしよう」と目標を立てた。それを実現するには、中心静脈カテーテルを抜くことが条件で、経口摂取が必須となる。管理栄養士と看護師から嚥下や食形態についての話があり、リハスタッフから寝たきりの状態から車椅子に座れるようにするための計画が提案されるなど、活発な意見交換がなされた。全員が一丸となり目標に向けて取り組んでいく気概が感じられた。

 それから母は、会うたびに目に見えて元気になっていった。少しずつ経口摂取が可能となり今ではミキサー食が食べられるようになった。話もできるようになり、リクライニングの車椅子に座れるようになった。そして、入居から3カ月の今週、デイサービスに行けたのだ。食事も話もできず、「ターミナルですね」とまで言われた母が、ここまで回復するとは……。医師の目標設定と指示の下、多職種が本気で取り組むすごさを見た。でも、そこに薬剤師はいない。

 実は、初日のカンファレンスの最中に、薬局の薬剤師が薬を届けにやってきた。ボクは内心「やられた!」と思った。薬局薬剤師がこんなレベルの高いカンファに参加してバリバリやっているのかと思うと、悔しかったのだ。だが、さにあらず。薬剤師は母の薬を置いて帰っていってしまった。ホッとしたような寂しいような気持ちになった。地域医療を担うというからには、あの輪に入っていかなければならないはずだ。頑張ろう薬剤師! やるべきことはいっぱいある。(長作屋)