Illustration:ソリマチアキラ

 ボクは、取引先はビジネスライクに選ぶが、いざ取引が始まれば、気心の知れた仲となって仕事をしたいタイプだ。互いにビジネスパートナーで良かったと思える、いわゆる「Win-Win」の関係に、人情味や人間味といった昭和の香りを少しまぶした感じがいい。そんな関係を築くためにも、日ごろお世話になっている医薬品卸の人たちとは、決算の報告とお礼を兼ねて、年に1度、食事の場を設けている。今年も、その時期となった。

 1社目はA卸で、役員と支社長と会食をした。ボクは取引先からおごられるのは好まず、必ずこちらが案内する。プロパー(MR)時代から、予算の範囲内で、値段を超えてその人の心に残る接待をするのを信条としてきたボクは、時間をかけて場所を選び、ここぞというときには事前に下見に行くほどだ。

 この日も、大人がゆったりと語り合える雰囲気のある割烹(かっぽう)を選び、心づくしの席を設けた。1年間の感謝の意と今期の目標を伝え、互いの目標達成のためにいいパートナー関係が続くよう、深い話ができた。

 良い気分で会食を終えた翌早朝、先方からお礼のメールが入った。A社の人たちはどんなに遅くまで飲んでいても、翌朝7時すぎに必ず出席した全員からお礼メールが来る。ありがたい話だが、パソコンとスマートフォンにも同時に送られてきて、そのたびに起こされる。今回は役員からは7時20分に、支社長からは7時28分にメールが来た。おまけに、9時には担当者(会食に参加していなかった)が、お礼を言うために会社の前でボクの出社を待っていた。

 2社目はB社。ここの役員は、うちの処方元の院長がメンバーになっている名門ゴルフコースで、一生に一度でいいからプレーしてみたいと日ごろから言っていた。そこで今回、院長に頼み込んで紹介状をもらい、ビジターでプレーできるように手配し、ゴルフの後の食事は、B社の役員さんが好みそうなお店を用意した。会食は和やかに進み、1年間のお礼と今期の目標共有ができ、そうこうするうちに一緒にいた支社長は酔い潰れてしまった。楽しんでいただけたのなら何よりだ。

 さて翌日の昼すぎ、同行していた社員から「B社から昨日のお礼メールが来ていないですよね」と言われた。彼はボクが、隣の院長に無理言ってゴルフコースを予約したことを知っていて気にしていたのだ。言われてみればそうだった。お礼を求めて場を設けているわけではないし、そんなメールは要らないとさえ思っている。しかし、「来ていない」と指摘されると妙に気になる。

 強要するつもりは全くないが、ビジネス上の関係はもちろん、ビジネスを超えた人間関係でも、お世話になった翌日にはお礼の一言があった方がいい。朝イチで全員が必ずメールを送ってくる会社と、片や1週間たっても誰も何も言ってこない会社……。こんなことでは卸として生き残っていけないのではないか。老婆心ながら、元剛腕プロパーとしてはそう思わざるを得ない。

 そういえば、ここ最近、B社は伸び悩んでいる。お節介なボクはとても気になる。「そんなことだからダメなんだ」と思うものの、それを言っちゃうとパワハラと言われそう。でも気になる……。そんな思いで、何回も何回も受信メールをチェックしてしまう。(長作屋)