イラスト:畠中 美幸

 A整形外科診療所は、ある地方の住宅地に比較的近い場所にある診療所だ。公共交通機関が十分に発達しているわけではないため、働く職員も車通勤であり、診療所から徒歩数分の場所に職員用駐車場を確保している。職場の雰囲気は比較的良く、職員同士も近くから出勤する人が多い。近所同士であったり、同級生同士であったりと仲が良い印象がある。

 ところがある日、B院長の元に外部から匿名で苦情が入った。どうやら毎日のように、職員駐車場での職員のおしゃべりがうるさいようだった。さらには、「ごみが捨てられていて風で自宅の方に飛んできたりするので、いい加減にしてもらいたい」「エンジンを長い時間吹かさないでほしい」など、迷惑しているとのことであった。苦情の連絡は電話であったが、B院長は電話口で平身低頭に謝り、職員を注意して改善する旨を返答した。

 そこで、B院長は近くにいた事務スタッフのリーダーに、「うるさいなどの苦情が外部から入ったが、思い当たる節はないか」と聞いてみた。リーダーによると、仕事が終わって職員同士で話しながら更衣室で着替え、そのまま話しながら駐車場に向かい、駐車場内でもしばらく話し続けているようだった。しかも、それがほぼ毎日であったようである。

 さすがに、今日の勤務終了後も同様のことが起きてはいけないと思い、出勤している職員全員に「職員駐車場の近隣住民から、うるさいという苦情が入ったので注意してほしい」とのみ伝えた。ごみが捨てられているとか、エンジンを長い時間吹かさないでもらいたいなどの苦情については、「そんなささいなことまで…」という思いもあったので、あえて伝えなかった。その後、B院長は今後の対策を考える目的もあり、顧問の社会保険労務士に相談をした。

職員への注意喚起は必要だが、過度な対応は禁物

 社労士との相談では、苦情を寄せてきた人への対応と労務管理上の対応を切り分けて考えた方がよい、とのことであった。具体的には、苦情のあった事柄は当然改善が必要ではあるものの、その内容がエスカレートした場合、職員にとって窮屈に感じることある。そのため、やるべき管理はしっかりとやりつつも、通常の生活において許容できるレベルについては従来通りでよいのではないかとのことであった。実際、こうした騒音は気になりだすとさらに気になり、「車両のドアの開け閉めがうるさい」「駐車場の砂利を踏む音がうるさいので、アスファルトに変えてほしい」といった話は生じやすい。夏場はエアコンが効くまでの間、車の窓を開けて換気することが多いが、その際に車中のラジオの音声や音楽が外部に流れてうるさいという指摘を受けることもある。それらすべてに対応し続けていると職員も疲弊してしまう、ということでもっともな話であった。

 他方で、ごみの問題や長時間の駐車場内でのおしゃべりは、当然近所迷惑につながるため改善が必要となる。そこで、社労士から、まずは注意文書を作る提案があった。

張り紙作成と定期的な会議で対応

 こうしたケースでは、規程などを作って「○○はしてはならない」などの禁止事項を複数列挙するように定めることがある。一方、A整形外科診療所では、職員が窮屈に感じることのないよう、「駐車場内では、近隣住民に迷惑が掛かるため静かにしよう」「駐車場内でごみは捨てないで持ち帰るか、診療所まで持ってきて捨てよう」といった文章に、ポップなイラストを付けてまとめ、職員用の掲示板に貼ることとした。

 加えて、B院長は苦情を申し出たと思われる方のみではなく、それ以外の近隣の方も同様に不快に感じていたであろうと思い、複数の近隣住民に菓子折りを持って謝罪に足を運んだ。その際、ルールを定めて職員に周知した点も伝え、住民との感情の溝が深くならないように行動した。

 その後、A診療所には近隣から苦情が入ることはなくなったが、職場の雰囲気が良いことを理由に、何もルールなどがなかった点は反省した。そのため、職員との定期的なミーティングで患者や近隣住民などに迷惑を掛け、困らせていることはないか考えることを定期的な議題の1つとして挙げることにした。

(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
服部英治●はっとり えいじ氏。社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。

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