Aクリニックと異例のカンファを開催
当社は24時間365日年中無休で営業しています。ですから今回のケースも、年末年始にかかわらず医師が早目に当社に直接連絡してくれていたなら、このような悲惨な状況は少しは回避できていたかもしれません。そうと思うと、とても残念です。さすがにAクリニックの事務長も、今回の事態を重く受け止め、理事長に相談したようです。1週間後、今回の患者さんの経過について、Aクリニックと当社の間で異例のカンファレンスが開かれました。カンファレンスで私が要望として伝えたのは、次の3点でした。
(1)末期患者は特に早い段階から訪問看護を導入していく。
(2)疼痛はがまんさせない。
(3)どのような経過にせよ、在宅で療養することを選択した患者には、ご本人およびご家族が苦痛に感じていることを医療従事者として最優先に取り除いていく。
日ごろ、さまざまな在宅医と地域で仕事をしていますが、(2)の疼痛コントロールのスキルについては、医師によりレベルが非常に異なります。(3)のスタンスは、各クリニックの方針や医師のポリシーによる違いが大きい印象です。中には、開業したての在宅クリニックの医師で、自院に患者がいないため、ポート針の抜去方法の家族指導など、本来訪問看護が行うケアまで行っていた人もいましたが……。
(1)については、ケアマネジャーが絡む話でもあるので、一概には語れません。また、癌末期の患者の中には、疼痛がなくセルフケア全般が自立していて、家族が何でもこなせる、死の受け入れも万全——という方がまれにおられます。そういう方の場合、訪問看護の必要性は低いのですが、現実には、患者に疼痛が出現し家族がつらくて見ていられないとか、今回のケースのようにオムツ交換や清拭すら家族が思うようにできない、点滴など処置に対する患者・家族の理解が不十分といった問題を抱えたご家庭が多いため、症状が急激に悪化してから訪問看護を導入するのではなく、在宅で療養生活を始めた段階、もっといえば、訪問診療よりも先に訪問看護を開始した方が得策だと考えています。
もちろん、衛生材料や点滴などが必要な場合は、早期から訪問診療が入っている方が処方や準備をしてもらえる点で何かとスムーズですが、癌末期の場合、介護するご家族は頭の中がもやにかかったような状態になっていて判断能力が弱っていることも多いため、医師よりも生活者の視点で配慮や工夫を講ずることのできる看護師の方が、在宅療養生活中に起こるさまざまな事態に「備えておける」という点において、果たせる役割は大きいように思います。
上述のカンファレンスの席上では訪問看護師が行うエンゼルケアの必要性もしっかりお伝えしました。Aクリニック側から、恐縮するくらい平謝りされましたが……(笑)。
※本コラムでは、読者の皆さまからの質問を募集しています。訪問看護に関する現場の悩みにエキスパートがお答えします。投稿はこちらから。お待ちしております!
つぼうち のりこ氏●1988年東京女子医大付属看護専門学校卒。同大付属病院、日本医大多摩永山病院などを経て、98年から訪問看護に従事。セントケア(株)訪問看護部次長、(株)ミレニア訪問看護サービス部長を務め、訪問看護事業所の立ち上げと運営・教育に携わる。2013年におんびっと(株)を設立。訪問看護ステーションへのコンサルティングや教育事業を手がけ、14年2月から訪問看護サービスをスタート。