質問
 都内で10年ほど訪問看護の管理者をやっています。最近、地域に在宅診療専門クリニックが増えてきたのですが、若い医師が多い上、担当医の入れ替わりも激しく情報共有がうまく図れず困っています。患者さんに対する責任感も希薄で、うんざりする毎日です。

回答者
坪内紀子(おんびっと[株]代表取締役)


 お気持ちお察しします。当社のある東京都豊島区やその周辺でも、近年、在宅診療専門のクリニックが増えてきました。そうしたクリニックの中には院長や担当医がコロコロ変わるところがあり、つい先日も、退院時カンファレンスで同席したばかりの院長が、2週間後に会った時には辞めており別の医師に替わっていた……なんてことがありました。また、私たち訪問看護師から見て、在宅療養中の患者・家族の思いをくもうとせず、単に形式的に訪問を繰り返しているだけの“残念な”クリニックも、正直あります。

ケアマネから「助けて」とSOS
 年始に実際にあったケースを紹介しましょう。患者は大腸癌末期の90歳代男性。数カ月前から在宅専門のAクリニックの訪問診療を受けており、年末までは食事もわずかながら食べ、トイレも何とかはって自分で行っていました。しかし年が明けてから一変。強い疼痛が出現し一歩も動けなくなり、食事も水分すら全く取れなくなってしまいました。介護者は60歳代の未婚の二人の娘です。正月明けに地域包括支援センターに介護サービスの利用を申し込み、すぐにケアマネジャーが手配されました。

 男性患者の担当になったケアマネは私がよく知っている方で、ある日そのケアマネから「坪内さん、助けて〜!」と電話が入りました。男性患者宅を訪れた時の様子を興奮気味に話され、「とにかく悲惨な状況なの〜」と訴えられました。電話があったのは夕方。「すぐ動く!」がモットーの私は、翌朝の訪問をケアマネと約束し、電話を切りました。

 翌日訪問したところ……、確かに悲惨でした。疼痛への対応が何もなされてない上、経口摂取ができなくなってから6日も経っているのにこちらにも何の対処もなく、娘二人で汗だくで何時間もかかって便の始末をしたものの、患者の背部やらあちこちに便の残骸が付着している始末。私は身体をきれいに整え、娘さんたちに介護指導を行いました。ご家族は「このまま父が干からびていくのを見ていられない」と切実に訴えられました。

 私は「あれ?Aクリニックは訪問診療の時、いつも看護師がついてくるはずだけど、看護師としてこの状況に気付かなかったのかな……」と残念に思いました。そしてAクリニックに電話を掛けました。

「入院を拒んだ患者だから仕方ない」って……
 不思議なことに、Aクリニックは医療的な相談も医師ではなくすべて事務長が引き受けており、この日も事務長に男性患者の状況を説明し、疼痛緩和のための医療用麻薬の処方の検討と皮下点滴の指示を打診しました。事務長は「やはり、そうですよね……」と一言。患者の様子やご家族の介護力が心配なので、翌朝も当社スタッフを訪問させるつもりでおり、それらの指示の手配を「明日の朝9時までにお願いします」と事務長に伝えました。

 しかしあろうことか、その患者には何も処方されませんでした。理由について事務長に尋ねると、「もともと入院を拒否して在宅に帰ってきた患者だから」という担当医からの返事を代弁するに終始。「痛みに苦しみ干からびそうな患者さんが目の前に横たわっているのに、それかい!!」と私は怒りを通り越してあきれてしまいました。これ以上話してもらちが明きません。事務長に一言「残念です」とだけ伝え電話を切りました。その日の晩、患者さんはお亡くなりになりました。

 亡くなった時、最初、娘さんは「父がもう息をしていません」と、Aクリニックの医師に連絡を入れたのですが、医師は「すぐには行けない」と告げたそうです。途方に暮れたご家族は、当社に連絡してこられました。「多分、息を引き取っていると思うのですが、医者はすぐに来れないみたいだし、どなたか来ていただけないかしら?」と……。

 当社の看護師が到着した時には、既に息を引き取っておられました。そうこうしているうちに医師も到着。「この後はどうすればいいのでしょうか?」とご家族が医師に尋ねると、「体をきれいにするんだけど、看護師より葬儀屋に頼んだ方がいいと思いますよ〜」とあっけらかんと言ってのけました。当社の看護師はエンゼルケアをする気満々でしたが、その場はすんなりと引き揚げ、ステーションに戻ってきて開口一番!「ばかじゃない〜あの医者!!失礼しちゃうわ〜!!」と怒り心頭。管理者の私は、終末期ケアの費用を何も算定できない状況をつくってくれた医師に対し、苦々しい思いを抱いたのでした。