質問
 訪問看護ステーションの管理者3年目です。社会の要請もあり、医療ニーズの高い医療保険の患者さんを積極的に受け入れていきたいと考えているのですが、当法人のオーナーは、「そんなことはしなくていい。人の確保も大変だし売り上げが下がる」と聞き入れてくれません。どのように説得すればいいでしょうか?

 先月、厚生労働省の中央社会保険医療協議会で2016年度診療報酬改定案が承認され、改定の全貌が明らかになりました。

 訪問看護ステーションについては、14年度改定で新設された「機能強化型訪問看護ステーション」の要件が緩和される模様です。昨年9月時点で、機能強化型の届け出は全国でわずか308事業所。全ステーション(8241カ所、2015年4月時点)の3.7%にすぎないことから、国は、「常勤看護職員5人以上」のいわゆる大規模ステーションに、医療保険で訪問するような癌末期や神経難病、人工呼吸器装着者など医療ニーズの高い患者さんを積極的に受けてもらうべく、年間の看取り件数の算出方法などの要件を見直したようです(関連記事:機能強化型訪看ステーションの要件緩和)。

滞在時間が30分でも90分でも料金は一緒
 しかし、そもそもの話として、医療保険による訪問看護の報酬体系(訪問看護療養費)は、介護保険のそれ(訪問看護費)と比べるとおかしな点があります。

 介護保険の訪問看護費は、「30分未満」「60分未満」など滞在時間によって単価がそれぞれ異なります、一方、医療保険の訪問看護療養費には滞在時間による単価の差はありません。ざっくり言うと、「1回の訪問につき、最低30分間は滞在していなさい。しかし色々な状況があるでしょうから、最大90分までは1回としてみなしてください」と規定されています。また、介護保険では地域ごとに7段階の金額設定がありますが、医療保険の金額は全国一律です。

 具体例を示しましょう。介護保険の場合、金額に換算する際用いる単価(=係数)を東京23区の11.4として計算すると、滞在時間ごとの単価は以下の通りになります。

・30分未満:463単位(5278円)
・60分未満:814単位(9279円)
・90分未満:1117単位(1万2733円)

 一方、医療保険の場合。例えば、厚労大臣が指定する(別表7に該当)人工呼吸器装着中の神経難病の患者さんで、ご家族のレスパイト目的も含めて1カ月間、毎日1回(おおむね1時間)訪問をしていると仮定し、24時間対応体制加算など全ての加算を算定した場合、31日分の保険請求額は29万8750円となります。つまり訪問1回当たりの単価は9637円となります。一見すると介護保険による訪問よりも割がよさそうですが、仮に毎回90分滞在していれば、介護保険の「90分未満」の訪問に比べて3096円も単価が下がります。

 また、現在、訪問看護では1カ月に最大93回訪問することも可能なのですが、仮に93回訪問したとすると、介護保険での訪問との収支差は一段とかい離が目立つようになります。前述の神経難病患者さんの場合、保険請求額は54万6750円となり、毎日1時間、1日計3回、必要性があって訪問しているにもかかわらず、1回当たりの単価は5879円にしかなりません。これを、1日実働5時間の看護師(時給2000円)の訪問スケジュールに当てはめて、人件費率をシミュレーションしてみると……。

【パターン1】
医療保険で60分滞在(5879円)×5回⇒2万9395円(人件費率54.4%
【パターン2】
医療保険で90分滞在(5879円)×3回+介護保険で30分滞在(5278円)×1回⇒2万2915円(同69.8%
【パターン3】
介護保険で60分滞在(9279円)×5回⇒4万6395円(同34.5%
【パターン4】
介護保険で30分滞在(5278円)×1回+介護保険で90分滞在(1万2733円)×3回⇒4万3477円(同36.8%

 お分かりでしょうか。現状では【パターン2】のように、1日3回の訪問を必要とする高い医療ニーズのある患者に訪問すればするほど、1回当たりの単価が下がり、ステーションの経営は立ちいかなくなってしまうのです。ですから、ご質問者の方の事業所のオーナーは「NO」とおっしゃっているのでしょう。

 しかし本来、訪問看護は医療ニーズの高い方にサービスを提供してなんぼであると私は思っています。結果として、当社でもそうした患者さんを積極的に受け入れています。たとえ1回当たりの単価は下がったとしても、どのような方も受け入れていくのが訪問看護ステーションの存在価値でしょう。そうした患者さんがいたとしても、ステーションの経営そのものは、1日の訪問件数を調整することで黒字化させることは可能です。

 具体的には、看護師1人当たりの1時間の平均売上高を常に「4000円以上」になるようにキープし続ける、つまり、1日8時間就業する看護師に日に5件以上訪問してもらえばいいわけです。ですからどうぞ、勇気を出してオーナーには説明してみてください。どうしても折り合いがつかない時には退職も辞さないとの覚悟で臨みましょう。

患者の重症度を報酬に反映してほしい
 医療ニーズの高い患者への訪問看護を国として推進したいのであれば、私は、医療保険による訪問看護を適正に評価して頂きたいと思っています。

 例えば、病院に取り入れられている『重症度、医療・看護必要度』の評価基準を在宅にも導入し、患者数だけでなく、患者1人当たりの月の訪問件数や実施内容などを踏まえて、どれだけ重度の患者を看ているのかをも加味して評価するといった具合です。このように、報酬体系を抜本的に見直す時期に来ているのではないでしょうか。

 ちなみに、今改定で診療所や病院からの訪問看護の単価が250円ほど引き上げられるようですが、この見直しには一体どのような意図があるのでしょうか?一方の訪問看護ステーションの報酬については据え置きのようですが、それはなぜでしょうか?また、訪問診療については今改定で土日対応を評価するようですが、訪問看護ではなぜ評価されないのでしょうか?
 
 在宅医療の主な担い手は医師ではなく訪問看護師なのだと、厚生労働省の官僚の方々には認識を改めていただきたいと切に願ってやみません。