質問
訪問看護ステーションの管理者になって2年目です。先日、運営会社から、病院などの医療機関などに営業に行くよう指示が出ました。退院患者さんを紹介していただくためにどのようなことをアピールしたらよいのか調べていたら、2016年度診療報酬改定で「退院支援加算1」という加算が創設されたことを知りました。どのような加算なのか良く分からないので教えてください。また、営業の際には、院内のどのような職種とどのような関係を構築すればよいのでしょうか。

 実は、「退院支援加算1」が病院にとってどのような加算と捉えられているのか、私にもよく分からないのが実体です。なぜ分からないのかというと、「退院支援加算1」は点数が高く設定されており、病院にとっては経営的に“おいしい”“加算であるにもかかわらず、都内で、加算の算定を届け出ている医療機関にあまり遭遇しないためです。

 2016年度診療報酬改定では、病院から在宅への流れを加速させるため、従来の「退院調整加算」が再編されて、2つの「退院支援加算」が創設されました。改定前の退院調整加算は「退院支援加算2」となり、その上位クラスの点数として、算定要件や施設基準をより厳しく設定したのが、「退院支援加算1」です。加算1は、一般病棟の場合600点(退院時1回)です。

 厚生労働省としては、退院支援の体制をより強化することで、患者に安心・納得してもらった上での早期退院や、在宅を中心とした地域での医療・介護サービスの充実につなげたい考えのようです。

 「退院支援加算1」には、地域連携室など退院支援部門に専従・専任で看護師または社会福祉士を置く、2病棟に1人以上退院支援業務に専任する職員を配置する、といった厳しい算定要件があり、その中に「20カ所以上の他医療機関や介護事業所と連携して、職員と年3回以上の面会をして情報を共有する」という要件があります。ただ、弊社は、都内にある多くの大学病院や民間病院に営業に出向いていますが、加算創設から半年以上経った今でも、「年3回以上面会をして情報を共有しましょう」という相談を受けたことはありません。話題にすらならないところを見ると、今回も「絵に描いた餅」なのかもしれません。

入院前から退院先が決まっている
 とはいえ、退院支援の取り組みは、ぜひ日本でもっと推進すべきだと私は考えています。10年ほど前、米国のロサンゼルス郊外にある巨大病院へ見学&視察に訪れた際、退院調整にかかわるスタッフとのカンファレンスの機会を得ることができ、彼らの働きとその仕組みに、いたく感動しました。

 以下に、今でも覚えている感動したポイントを挙げてみます。

(1)退院支援の部署に配属されているスタッフに医療従事者はいなかった(教育カリキュラムによる訓練を受けた無資格のスタッフ)
(2)入院が確定した時点で退院支援に動き出す
(3)総勢30名近いスタッフで対応している
(4)入院前から、多くの場合その後の転帰が確定されている
(5)訪問看護の必要性の是非を決定するのは、あくまでも担当医

 強調したいのは、米国ではこうした退院支援活動を10年も前から実行していたということです。もっとも、米国の病院が早くから対応をしている背景には、米国の巨大病院にはほとんど外来機能がなく、クリニックのオフィスで診断をつけてから、各医師達は自分自身が契約している病院の確保ベットに入院させている、という事情があります。つまり、外部の医師からの入院の連絡を受けて、院内のノンメディカルのスタッフ(教育カリキュラムによる訓練は受けている)たちは、患者の入院前から退院支援に乗り出し、入院後の転帰先を決定しているというわけです。

 このように事情は異なりますが、入院時点で在宅復帰を見据えて退院支援に動き出すという仕組みは、今こそ日本でも導入すべきだと思います。

 現時点では、病院側の退院支援にかかわるスタッフでさえも「退院支援加算」という言葉自体をよく知らないケースも少なくないようです。積極的に退院支援に取り組んでいる医療機関がまだまだ少ないのでしょうから、質問者の方も、訪問看護ステーションの管理者の立場で、営業先の病院担当者と「退院支援加算」についてディスカッションしてみてもよいのかもしれません。 病院にとっては、「退院支援加算Ⅰ」を算定することで、退院支援に力を入れている病院として差別化が図れますし、早期退院につながればベッド回転率も上がり、経営面でのメリットも大きいはずです。それらの点を伝えながら、質問者の方のステーションと連携できないか探っていってもよいでしょう。

地域連携室に足しげく通い病院のニーズを把握
 最後に、ご質問にあった、「営業の際には、院内のどのような職種とどのような関係を構築すればよいのか」について、私見でお答えいたします。病院によって退院支援を担う部署の呼称はそれぞれなのですが(統一していただきたいと常々思いますが)、「地域連携室」や「看護相談室」といった部署を設けている病院が多いと思います。

 数ある病院の中から、第六感でもなんでもピンときた病院の地域連携室などに足しげく通い、まずは顔を覚えていただくことから始めるしかないと思います。その病院ではどんな退院患者を抱えていて、退院支援に苦労するのはどんなケースか、といった情報を把握しておくとよいでしょう。営業に回っているうちに、病院のニーズが見えてくるはずです。ちなみに、退院後の在宅医療を担う訪問看護ステーションは、患者の退院時に医師などと退院前のカンファレンスなどを行った場合は、「退院時共同指導加算(医療保険の場合6000円)、介護保険の場合600単位」が算定できます。

 あとご注意いただきたいのは、病院によって、地域連携室の中にMSWと看護師がいるものの、両者がうまく連携しながら退院支援を進められている病院は意外と少ないという点です。最後になりますが、訪問看護に関するコンプライアンス (例えば、利用者の病態によって、医療保険と介護保険どちらの適応になるのかなど)を最低限おさえていないと営業活動は成立しませんので、こちらも併せてご留意ください。