質問
 訪問看護ステーションの管理者になって3年目です。あるスタッフから、「担当利用者の〇〇さんが暴力をふるってきたので、もう訪問できません」と言われました。管理者として、どのように対応していけばいいでしょうか。

 それは大変でしたね。まずは、暴力を受けたスタッフに対しては、外傷の有無や精神的ダメージの程度を確認した上で、お詫びとねぎらいの言葉をかけましょう(傷ついていないことを願うばかりですが…)。そして、そのスタッフには今後、暴力をふるった利用者宅への訪問はさせないようにします。

 加害者である利用者への対応としては、担当のケアマネジャーに暴力のことを報告した上で、まずはステーションの管理者がその方に会いに行きましょう。その際、できれば担当ケアマネジャーが同席していることが望ましいです。利用者にお会いして、今後も同様のことが起こる可能性を感じたら、私ならばサービスの提供を中止することを提案します。これ以上、スタッフを危険な目にさらすことはできないからです。

訪問看護師の半分は暴言暴力を受けている
 2016年、神戸市看護大学教授の林千冬氏らが兵庫県内の事業所で働く訪問看護師360人を対象に行った調査では、50%もの訪問看護師が利用者や家族から何らかの暴力を受けている実態が明らかになりました。新聞報道によれば、兵庫県はこうした実態を受けて、2017年度から看護師や事業者などから相談を受け付ける専門の窓口を設けるようです。訪問看護事業者としては、利用者や家族からの暴力への対応策は欠かせなくなっています。

 では、なぜ訪問看護の現場では、利用者や家族から暴言・暴力を受ける機会が多いのでしょうか。

 一つには、そもそも我慢してきた看護現場の風潮が影響しているのではないかと思います。今回のご質問にお答えするにあたり、少し調べてみました。2009年7月に日本看護協会が主催した「看護職賠償責任保険制度・第7回特別講演会〜看護師への暴力にどう対応するか〜」という講演会があり、当時の講演記録を読み進めてみると、「管理側は看護師の安全と尊厳よりも患者の安全と人権を重視する風土がある」「患者は病気であるため多少の患者からの暴力は我慢すべきであるとし、仕方がないと保健医療機関では受け止められてきた」と記されています。

 私はこの考え方に「本当に?」と若干の違和感を覚えます。患者がいても看護師がいなければそもそも看護は成り立ちませんし、病気だからと言って暴力をふるっていいはずがありません。まだまだこういった考えが医療現場に浸透しているのだとしたら、訪問看護にかかわらず、看護スタッフが暴力を受けても泣き寝入りしているケースが少なくないのかもしれません。

 私自身、「暴力」と言えば、ある病院に在籍していた若い頃に1度だけ経験がありました。自殺未遂を図った中年の女性が夜中に救急搬送され、薬剤で落ち着くまでの間、私はその女性患者に顔面を数回殴られました。半狂乱に近い状態の方でした。痛かったですが、「この方の心はもっと痛いんだろうな…」などと考えていました。当時、病院側の対応は、次の日、上司たちから「大丈夫だった?」と声をかけられた程度です。その経験は、私のその後の人生に影響は及ぼしていないようですが……。

徐々に「なぁなぁ」の関係になる利用者とナース
 また、訪問看護ステーションの場合、まだまだ担当制を敷いているところが多いため、その弊害が生じているのだろうと考えます。今週も来週もその先も、基本的に1人のナースとしか向き合わない利用者。時間の経過とともに、なじみの関係からどちらも少しずつ遠慮がなくなる。最悪な場合は。「なぁなぁ」になる。利用者が男性だと、日本ではいまだに男性が女性を下に見る傾向が強いせいか、暴言などが出やすくなるように思います。そこに、若干の認知機能の低下などが生じていれば、なおさら遠慮がなくなるのかもしれません。

 そのため、本来は完全に担当制ではなく、仕組み(患者についての帳票類を整備したり社内ルールを構築することです)を作った上で、チーム制などの体制を整えて風通しの良い環境をつくるべきなのかもしれません。

 さらに、訪問看護ステーションの管理者が、管理者として機能していないことも、スタッフが暴力を受けやすい要因の一つなのではないでしょうか。当ステーションでは、利用者への初回訪問は管理者でもある私が必ず担当し、サービスに関するインフォームドコンセント、身体機能や生活環境などのアセスメント、そしてご本人やご家族との関係構築を徹底的に行っています。当然、通常の訪問より長い時間を要しますが、その時間延長はサービスとしています。

 初回訪問でこうした体制を取っている目的は2つ。利用者とご家族に対して責任の所在を明確にすること(「すべての責任は私にあります」というアピールをする)と、2回目以降に訪問するスタッフが一人で困らないように、提供するケア内容の範囲や手順などについて、きちんと段取りをつけることです。これが、管理者の最大の役割だと考えています。帰社後、患者情報を記した帳票類などをすべて整えて、そのベースを踏まえて2回目以降の訪問はスタッフ一人で行っています。

 正直申し上げて、私は20年近く訪問看護業界におりますが、暴力被害に一度も遭遇したことがなく、スタッフからそのような報告を受けたこともありません。もちろん、利用者やご家族からつじつまの合わない暴言を吐かれたことなどはありますが、その際には「クレーム」として取り上げ個別対応を行ってきたので、「暴力」とは捉えていません。

 前述したような取り組みを行っているから、明確な暴力行為に悩まされたことがないのだと思います。

 もちろん、今回の事例の場合、暴力行為を受けたスタッフに、毅然とした態度で対応するように求めるのは困難です。「あなたの対応は適切ではなかった」「あなたにも問題がある」といった指摘も禁句です。管理者として大事なのはスタッフを守ることであり、決して本人に対応させてはいけません。

 しかし正直なところ、自ら出入り禁止になるように仕向けた訪問看護師に出会ったこともありますし、「天職」だと言いながら金銭にしか関心のない看護師もいましたから、看護師の言っていることがすべて正しいとは言い切れませんが……。