実際、Dクリニックでは、医師をはじめ、職員全員が患者さん一人ひとりのパーソナリティーを把握。せっかちな患者さんには、待ち時間が長くなると「あと○○分程度で呼ばれますよ」と声掛けをするなど、個々の患者の性格を見極めた対応を行ってきた。また、同じ病気を持つ人たちの勉強会や旅行会をクリニックで開催し、職員と患者とのふれあいを大切にしている。

 そんな中で、年明け早々ほほえましいことが起こった。患者向けの様々なパンフレットを収納している待合室のラックから、職員全員の新年の抱負を紹介したパンフレットだけが、全て持ち帰られてなくなったのだ。さらに、増刷した分もほどなくして、なくなったとのことだった。患者さんと職員との良好な関係がうかがい知れるエピソードである。

意見を述べやすい雰囲気を作る
 職員と患者の関係がこれほどまでに近くなっている背景として、院長が各職員の仕事ぶりを見た上で綿密にコミュニケーションを取り、評価すべき部分はきちんと伝えている点が見逃せない。職員たちがそのことを意気に感じて働き、結果として患者サービスが向上しているのである。

 職員から業務改善の提案を募るなど、意見を言いやすい雰囲気を作っている点も特徴だ。意見を述べる場の1つとなっているのが、月1回開催している会議で、職員全員参加として情報を共有。ヒヤリハット報告など、事務部、診療部ともに活発な意見が交換される。全体会議を1時間程度行った後に、事務部と診療部に分かれた部会を開き、問診票の改良版の検討など、改善すべき事項として挙げられたことを徹底的に話し合っている。もちろん、医師も会議に参加しているが、フラットに意見を述べ合う雰囲気で、気後れする者はない。

 Dクリニックでは、これまでにトラブルで辞めた職員はいない。もちろん、職員トラブルの背景には様々な要因が絡み合い、コミュニケーションを取っていても発生してしまうこともあるが、Dクリニックの様子を見ていると、少なくとも院長夫妻との関係が原因で辞める職員は今後も現れそうにない。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
加藤深雪(特定社会保険労務士、株式会社第一経理)●かとう みゆき氏。日本女子大人間社会学部卒業後、2003年第一経理入社。企業や医療機関の人事労務コンサルティングを手掛け、中小企業大学校講師や保険医団体の顧問社会保険労務士も務める。