質問
 訪問看護ステーションで訪問看護師として勤めて5年。近々独立して、自分でステーションを開設したいと考えております。今のステーションでは入社したばかりの新人看護師の同行訪問は「最低3カ月間」としているのですが、本当にそんなに長い期間の研修が必要なのでしょうか。開設してしばらくは人員のやりくりも厳しいでしょうし、必要がなければ職員の研修期間はもう少し短くできればと思っているのですが……。

 独立をお考えなのですね。おめでとうございます。開設当初に、ステーションを運営していく上でのオペレーションの体制を整えておくことは非常に重要です。

 私自身のこれまでの経験から導き出した結論から申し上げましょう。一般的な臨床経験を経てきたナースであれば、正社員・非常勤を問わずフルタイムで就業予定の場合、1週間から2週間も同行研修を実施すればお釣りがくるくらいだと考えています。これは、ステーションの総患者数を問わずです。曜日固定のパートタイマーやアルバイトのナースならば、数日間(1週間以内)の研修期間で十分でしょう。

 「最低3カ月」の同行研修が必要だという根拠は、おそらくどこにもないでしょう。私が導き出した結論の根拠は、以下の2点です。順番に説明していきます。

訪問看護の患者は8パターンに分類
 まず一つ目に、訪問看護ステーションが訪問する患者さんは、その業務内容から大まかに8パターンにカテゴリーできます。

 8パターンとは、(1)リハビリテーションがメインの方、(2)内服管理がメインの方、(3)様々なカテーテル類の管理が必要な方、(4)終末期の方、(5)神経難病の方、(6)精神系症状の方、(7)小児、(8)家族への教育がメインの方——。これらの患者さんの訪問を経験すれば、その後の訪問の際にも応用できるのです。

 例えば、そのステーションに70人の患者がいると仮定した場合、新人への同行訪問先は、上記8通りの患者が経験できるようにうまく振り分けることによって、実質8回で最低限のことは学べます(1日に5件は訪問できますので、これでは1日半で研修が終わってしまいますね!)。この8パターンの訪問を3セット行ったとしても延べ24回。つまり研修は1週間で完結できるということです。

 1〜2週間の研修で十分だという二つ目の理由は、漫然と長期間の同行訪問を行うことは、人件費の無駄だからです。
 
 看護師一人当たりの給料を、時給換算で2000円と仮定しましょう。1時間の訪問(医療保険、介護保険問わず)を、ベテランの看護師と入社したばかりの看護師の2人で行うと、最低4000円の人件費がかかります。移動時間に往復30分かかるとすると、さらに2000円の人件費がかかり、計6000円となります。一方で、訪問看護の1時間当たりの売り上げ単価は平均8500円程度。これは、売り上げに対して1時間当たり70%もの人件費がかかっているということを意味します。このような経営をしている企業はどこを探しても見つからないでしょう。

 また当然のことながら、正社員の場合は給与だけでなく社会保険料の支払いなどが発生するため、そこまで含めるとそのステーションの生産性は著しく低くなります。研修として3カ月間2人で訪問した場合と、2人での訪問は2週間で完結させた場合の人件費の差は明白です。

アセスメントツールの整備を
 ただし、前述したように患者を8パターンに分類するためには、管理者がそれなりの能力を持っていることが前提なのですが、実は、帳簿類の不備などにより患者の全体像が把握できていないステーションも少なくありません。

 訪問看護ステーションでコンプライアンス上必要な帳票類は、(1)日々の看護記録、(2)依頼を受けた際の相談票(3)介護保険の場合は居宅サービス計画書、(4)訪問看護指示書、(5)訪問看護計画書の控え(患者サインがあるものが望ましい)、(6)訪問看護報告書の控え、(7)契約書・重要事項説明書の控え——といったものです。これは、指定基準などに明確に定められたものではないのですが、私が東京都から実地指導を受けた際に必要だとされたものです。

 ここでお気づきになられた方はすごいです。そう、日本では患者の全体像などを理解する手掛かりとなるアセスメントツールは必須とされていません。そのため、初めて訪問を担当する場合、患者宅に出向いてみないとその患者さんの全体の状況を知る術がないというステーションは少なくありません。

 米国では10年以上前から、政府が作成した「OASIS(The Outcome and Assessment Information Set)」というアセスメントツールがあり、訪問看護ステーションは、患者宅への初回訪問後24時間以内に政府にこのツールによる報告を提出する義務を負っています。さらには、よい結果(計画通りに早期に訪問看護を卒業した場合)を出すことによってその訪問看護ステーションに対して政府からボーナスまでが出る仕組みまであります。

 新規開設の際にはぜひとも、アセスメントツールを整備してください。ツールに盛り込む内容は、(1)生活環境のアセスメント(介護者情報を含む)、(2)体幹部のアセスメント(系統別に列挙することが望ましい)、(3)自立の可能性に関するアセスメント、(4)チームとしての方針、(5)患者・家族の目標、(6)訪問看護へ期待すること——といったものです。

 私はたまたま、10年以上前に米国で学ぶ機会に恵まれたため、弊社では独自のアセスメントツールを保有しています。結果、職員たちは入社当初からそのアセスメントツールによる評価などを基に情報収集を行い、分からないことは自己学習を行い、入社時の同行研修は1週間も行えば十分という状況です。

 最後に申し上げたいのは、同行訪問のそもそもの目的です。まず入職者の多くは訪問看護未経験者なので、研修では訪問看護ならではの体験をしてもらえるようにするとよいでしょう。他人のお宅にお伺いして仕事をするという特殊性があるため、やっていいこと・絶対やってはいけないことを理解する、その訪問看護ステーションの業務の進め方(訪問看護の8パターンの患者のケアについて)を理解する、といった点が重要でしょう。