Illustration:ソリマチアキラ

 以前、本コラムで薬学生の意識が変わったと書いた(「学生までもがお上の言う通り!?」)。今や、基幹病院の“濃い”処方箋を経験できる薬局よりも、かかりつけとして健康サポートに取り組む薬局に人気が集まる。その後、変わったのは薬学生だけでないことに気づいた。薬局の吸収・合併(M&A)市場にも異変が起こっている。

 薬局のM&Aの手法は主に、(1)株式の一部(20%程度)を取得する、(2)会社ごと買い取る、(3)店舗ごとに買い取る──の3つ。

 (1)の株式取得率20%程度というのは、帳簿の閲覧権はあるものの、株主総会の決議の否決権は持たない立場で、某大手チェーンがよく使う手だ。売却側にとって、現金が入ってくるだけでなく、薬剤師の採用に頭を悩まさなくてもよくなり、大手の取引価格で薬を仕入れることができるなどのメリットがある。(2)は資本力のある大手チェーンの独壇場。そして(3)は、中規模チェーンが会社の規模拡大のために行うことが多い。

 つい先日、中規模チェーンを経営する友人から、薬局を1店舗売却した話を聞いて、ボクは驚愕した。大型門前薬局の値段が大暴落していたからだ。

 大型門前薬局といえば、その収益性の高さから薬剤師会の“目の敵”にされ、国の様々な検討会でも批判されまくってきた。それでも経営者にとっては魅力的な物件だった。

 大病院の建設予定地の門前では、土地価格が急騰し、何年も土地を寝かしてでも薬局を作ろうとしていたのは周知の事実。もちろん潤沢な資金が必要だが、開局してしまえば、あっという間に元が取れた(「A病院、いまだ分業せず──。」)。

 しかし、それはすっかり過去の話になった。

 実際、大病院の門前薬局の集中率はどんどん下がっている。患者が自宅近くの親切な薬局に処方箋を持ち込む文化が広まってきていると実感する。

 加えて、新たに敷地内薬局というリスクも加わった。せっかく門前の一等地に薬局を構えても、敷地内薬局ができれば、一気に形勢逆転だ。広い敷地の大病院の門前に薬局を持つ社長は皆、戦々恐々としている。ボクだって、「敷地内薬局は断固反対!」と叫びつつも、うちの大型薬局の前の病院が敷地内薬局を公募したら、手を挙げざるを得ないだろう。食うか、食われるか、なのだ。

 このように大型門前薬局の価値が下がる一方で、価値が高まっているのはどんな薬局なのか。

 仲介会社の営業マンに聞くと、うちの薬局の中で高値が付くのは、旗艦店として会社の経営を支えてきた大型門前薬局のA薬局ではなく、駅前の人通りの多い場所で眼科、皮膚科、内科、小児科の4診療所の処方箋を応需するB薬局だという。

 A薬局は、15年前には1日350枚程度あった処方箋が、最近は1日160〜170枚。一方、10年前に開局したB薬局は当時、1日30枚程度だったが、今や1日150枚超にまで増えた。いずれにしても、処方箋枚数よりも「地域の健康サポート薬局になれる立地」が高値の理由だとか。

 またしても厚生労働省が2015年に公表した「患者のための薬局ビジョン」の思惑通りではないか。薬学生といい、M&A業界といい、同ビジョンのインパクトは計り知れない。そして、そのビジョンの立役者が、今度は調剤報酬改定のキーマンになったと聞く。お上の御沙汰があるまで座して待つしかないが、心の準備だけでもしておくか。(長作屋)