——そのような事態になって、困りませんでしたか?
実はあまり困らなかったんです。検診や当直のバイトはインターネットでいくらでも見つかりましたから。その後、1年くらいはバイトをして食いつなぎましたが、病院に勤務していたときより手取りで40〜50万円ほど収入が増えたぐらいです。5年目のテーブルで一般的な給料を計算すると、だいたい1000万円くらいですが、バイトは1年目だろうが10年目だろうが一律です。「そうか。こんな手があったのか」と後から気付いても、もう遅かったですけどね(笑)。
実家に戻って約2年、父親のケアに関してやれることはすべてやったので、大学のあるB県に帰りました。一応、医局に籍は残っていましたが、大学へは戻らず、健康管理センターの職員を募集していた今の勤務先に就職しました。今度は紹介会社を使わず、自分でアプローチしました。やはり直接連絡して交渉するのがお互いのために一番いい。誰かが間に入るだけで話が複雑になりますからね。
金額交渉をする上では、医師紹介会社の力を借りたほうが良いかもしれません。ですが、その力を頼らずとも、ある程度の金額交渉できる“秘策”があります。実は紹介会社から提示される候補先の病院データを見ると、たいてい病床数は1の位までピッタリ記入されているんです。だから、病院名が伏せてあっても、地域と病床数、診療科目を勘案すると、どの病院かがほぼ特定できるのです。なので、あとは自分で直接アプローチして、提示金額を踏まえたうえで金額交渉すればいいというわけです。
——今は念願かなって人間ドックの仕事をしているのですね。
はい。今は希望通りの仕事ができています。日祭日は休み、当直はありません。B県は救急体制が整っていて、救急車の受け入れ拒否がない。子供を持つ身としては非常に安心して暮らせます。ただ勤務医の給与水準は他県よりいくらか安い。これは救急体制を維持するための予算を、そこから削って回しているからだと想像しています。僕の給与も、4〜5年前、A県でもらっていた額に今やっと追い付いたくらいかな。でも不満はありませんし、納得しています。
僕は病気を治すことだけでなく、健康な人を健康なままに維持していくというのも医師の大事な仕事だと思っています。物事って成熟していけばいくほど、分化していきますよね。野球で例えるなら、昔はエースがいれば良かったけど、今はエースのほかに中継ぎや抑え、ブルペンピッチャーがいる。外科医がエースなら、僕らはブルペンピッチャー。ただどこに光が当たっているかの違いで、両方必要だと僕は思います。人間ドックの仕事は目立ちませんが、それでいい。受診者さんの健康を維持してあげられれば、それで満足です。