考えてみましょう。日ごろ訪問看護師であるあなたがドクターをどのような存在として捉えているかを。
繰り返しになりますが、ドクターは訪問看護師(特にその管理者)にとっては、コンプライアンス上欠かせない訪問看護指示書を交付してくださる“お得意様”なのです。もっと言ってしまえば、“営業先”です。この感覚を身に着けていくと、明日からドクターに過度な期待をしなくて済みますし、満面の笑みでの対応が可能になります。残念ながら、医療従事者の多くは一般社会(いわゆる会社員など)での経験がないため、「営業」という言葉(ほかに妥当な言葉が見つかりません)に抵抗感を抱く人が少なくないように感じます。「営業=営利」というイメージがどうもあって、医療はそもそも営利を目的にしない性質のものだから、余計に厄介なことになってしまうようですが…。
「あのドクター腹立つ!!」とストレスを感じてしまうよりは、この感覚を身に着けることで、相当ストレスマネジメントに有効です。腹が立つのは、「もっと利用者のことを考えてよ」に端を発していませんか?その感情の裏では、ドクターには所詮できもしないかもしれない“何か”に、ナースとして期待しているような気がしてなりません。
しかし、たまたま腹の立つドクターが主治医だとして、在宅での療養生活を自ら望んで過ごしている利用者であればあるほど、ましてその利用者やご家族が、その主治医に特別不満を感じていないならば、腹が立つだけ無駄です。そこは一つ、「この方への訪問看護を提供させて頂くために不可欠な訪問看護指示書を交付してくれる“上得意”なのだから」と心底思うことによって、気にならなくなります。
それでも、「これ以上あのドクターと一緒にこの方を看ていくことはできない」という時は、一人で抱え込むことなくサービス提供を断念せざるを得ないでしょう。そこまで利用者と真摯(しんし)に向き合うナースであれば、利用者やご家族が手放すことはしません。そうです、気が付きます。「あの主治医おかしい」と。そこで主治医の変更を検討されるのです。その時は、新しい主治医探しに尽力するのです、そういうナースは……。
そもそも、在宅医療は入院医療とはその性質を異にし、治療が最優先されるわけではありません。一部の終末期や完治を断念せざるを得ないことを余儀なくされている方を除き、自立できる、または自立したい方に対してそれを支援していく場です。これは2000年から始まった介護保険の基本理念です。ドクターとは無理にうまく付き合う必要はないのです。「この利用者のたまたまの主治医があのドクターで、この利用者の訪問看護サービスを継続していくためには、何としても訪問看護指示書をゲットしなければならないので、時には頭を下げていく」でいいのです(お腹の中でたとえ舌を出していても!?)。そして、倫理的に利用者やご家族に不利益をもたらしている時だけ、“雷”や“爆弾”を投下しましょう!
※本コラムでは、読者の皆様からの質問を募集しています。訪問看護に関する現場の悩みにエキスパートがお答えします。投稿はこちらから。お待ちしております!
つぼうち のりこ氏●1988年東京女子医大付属看護専門学校卒。同大付属病院、日本医大多摩永山病院などを経て、98年から訪問看護に従事。セントケア(株)訪問看護部次長、(株)ミレニア訪問看護サービス部長を務め、訪問看護事業所の立ち上げと運営・教育に携わる。2013年におんびっと(株)を設立。訪問看護ステーションへのコンサルティングや教育事業を手がけ、14年2月から訪問看護サービスをスタート。