質問
都市部の訪問看護ステーションに勤めています。一人の利用者にじっくり関われそうだったので「担当制」をウリにしている事業所に就職したのですが、レセプト業務まで担当ナースに丸投げされる始末。急な休みも取りづらく、就職したことを後悔しています。
回答者
坪内 紀子(おんびっと[株]代表取締役)
訪問看護が指定事業として開始されたのは1992年のこと。私自身の看護師経験に比べれば歴史は浅く、「一昨年やっと成人式を終えました」という状況です。
さて、訪問看護の現場ではよく、「担当制」もしくは「チーム制」といった言葉を耳にします。医療機関における看護方式は「チームナーシング」「モジュール型」「プライマリーナーシング」の3種類に大別されるようですが、訪問看護で言う「担当制」や「チーム制」はこれらのミックス的な要素が強いものなのでしょうか?はたまたそれほどのものでもないのでしょうか?誕生した経緯はよく分かりません。各々の訪問看護ステーションが正式に告示しているわけでもないですし、また、何か根拠を持って採択しているものでもないような印象があります。
担当制というのは、毎回決まったナースが利用者宅を訪問する仕組みのことを言うようですが、その意義について少し考えてみましょう。
そもそも訪問看護の対象は、医療ニーズが顕在化もしくは潜在化している方々です。ですから、そこに“なじみ”の関係性はこれといって重要ではないと言えます。訪問介護の家事援助などの場合は、調理の味付けの慣れ親しみがあったり、掃除の仕方にも利用者がこれまで習慣としてやってきた“わが家の流儀”のようなものがあります。マニュアルだけでは十分対応しきれないサービスの典型です。ヘルパーさんの食事の味付けのさじ加減が利用者の好みに合っていれば、それだけで関係性が急速に縮まること間違いないでしょうし、そもそも要介護状態だからと言って味付けまで我慢していただくのは人道的におかしな話です。ですから、ある程度の“なじみ”は必要になってくるのかしらと思います。
私は介護系企業の訪問看護事業責任者として、これまで数百人の看護師さんと面接させて頂きました。訪問看護経験者はそのうち数%程度と圧倒的に少なかったものの、その方たちから再三にわたり耳にしたのが、質問者の訴えにあるような「担当制のステーションで働いたことがあるが、レセプト(保険請求)業務まで担わされたり、急な休みが取れなかったりといい印象はない」という話です。
私自身は担当制の中で働いた経験がほとんどないため、面接などで聞きかじったことや、休止や廃止となったステーションの利用者さんを引き継いだ際に聞いた話でしかないのですが、担当制に良い印象はありません。
担当制の良い面は、利用者から「必要とされている」という実感を看護師が持てることでしょうか。そしてそれが、やりがい(?)につながっていくのかしら……と想像します。が、しかしです。利用者の1日24時間、1週間168時間の中で、訪問看護が関わる時間はせいぜい1時間から多くても3時間程度、最大で1週間に21時間です。その方の健康管理に関するあらゆる責任を背負えるわけでは当然ないですし、そもそも看護師はそのような教育を受けているわけではありません。
精神科の利用者などでは特に、「担当制にして特定の看護師が関わらないと難しい」とも聞きますが、本当にそうでしょうか?私の経験上は、担当制でなくても利用者は、「似たような格好(ユニフォーム)でやって来て、年齢はバラツキが若干あるものの同じことを大体同じようにやって帰る人たち」という程度の認識で、それ以上は特に何も感じていない方が多いような印象があります。