(2)治療選択への支援
がん治療は、(A)がんを根治する、(B)再発転移のリスクを下げる、(C)根治はできないが延命する、(D)症状を緩和する(QOLの向上)——を主な目的に提供されます。患者さんは(A)や(B)については理解しやすいのですが、治療の目的に(C)や(D)があることを説明されると、「治らないこと」や「自身の命に限界があること」を自覚し大きな衝撃を受けます。「がんと共に生きる」といった思いに至るには、時間も必要ですし、多くの人々との語らいや、セカンドオピニオンも含めた医療的な情報の整理が重要となります。
私が看護師を始めた数十年前は、今ほどがん治療の流れが提示されておらず、医師の経験知を頼りに手探りで治療を進めるといったことも珍しくありませんでした。また、患者さんにショックを与えるような事実は闘病意欲を低下させるため説明しない方がいいと考える医療者も少なくなかったように思います。しかし、最近では多くの学会が治療ガイドラインを提示し、その内容は患者・家族も確認できるようになりました。そして何より、医療情報は個人情報なので、患者さん自身に提示することが治療の前提となりました。
確かに、倫理的には適切な方向になりましたが、一方で、厳しい内容を含んだ医療情報を提示された患者さんを、適切にサポートできるシステムは整っているでしょうか。治療選択の時点で、残りの命が週単位・日単位というわけではありませんが、中には医師から限界があることや、月単位で限界が来るかもしれないことを伝えられる人もいます。冷静な気持ちで適切な判断ができるはずがないように思います。緩和ケアの専門家のサポートまでは難しくても、日々関わる看護師が親身に声をかけたりや落ち着いた場所で話を聞くような体制を早く整えるべきだと思います。患者さんが直面している問題に寄り添うことも、患者さんを力づけることも緩和ケアの重要なポイントです。
(3)医療者とのコミュニケーションの円滑化
患者さんは、治療中の短い関わりの中で医療者との間に信頼関係を築き、さまざまな意思決定を求められます。そのため、患者さんに信頼されるような振る舞いや声かけは、医療者にとって重要なコミュニケーションスキルです。ただし、それだけでは十分ではありません。患者さん自身の価値観や人生観も含めた双方向のコミュニケーションを展開することが必要です。
治療期において医療者は、患者さんの主体性や希望を阻害しようとして関わっている訳では決してないと思います。しかし、日本に根強く残る医療への“お任せ”文化や、医療者に対する遠慮、がんが治らないとか死を迎えるなどの「起きてはいけないこと」へ目を向けないようにする患者さんの対処行動などにより、患者さんと医療者のパートナーシップが一致していないことは、決して珍しくはありません。それらを払拭し、円滑な双方向性のコミュニケーションを行うためには、患者さんの話を聴き、生活を理解するための医療者側の努力が重要です。対象を尊重し、対象に沿った関わりができることも、緩和ケアの重要なポイントです。
治療中であっても、患者さんたちは全人的(身体的・心理的・社会的・スピリチュアル)な課題に向き合っています。従って、緩和ケアの姿勢や理念を持ちケアすることがとても大切です。ただし質問にもあるように、「緩和ケア」という表現は、使う人々、聞く人々によって解釈は一様ではありません。「自分は末期なのか」と早合点したり、がっかりする患者さんもいると思います。患者さんとの会話の中で用いる時には、どのような意味を含めて緩和ケアを考えているのか、どのようなケアが必要だと考えているのか、医療者自身の言葉も添えて伝えた方が、誤解が防げるのではないかと思います。
うめだ めぐみ氏●1987年京都市看護短大卒業、淀川キリスト教病院勤務、2000年専門看護師認定、昭和大病院勤務。09年に起業し、緩和ケアに関連した看護活動を、施設を超えて行う。昭和大病院・ナグモクリニック非常勤看護師、キャンサーネットジャパン理事。