質問
 総合病院の外科病棟に勤めています。最近、“早期からの緩和ケア”という言葉をよく聞きますが、抗がん剤治療中の患者さんにも必要なのでしょうか?がんを治そうとしている患者さんに対して緩和ケアに関する情報を提供することで、かえって意欲が低下したり不安になるのではないかと思い、積極的に勧めることができません。

回答者
梅田恵([株]緩和ケアパートナーズ代表取締役、がん看護専門看護師)



 緩和ケアについては、1990年に緩和ケア病棟入院料が新設され、そこから国内において普及が始まりました。そのため緩和ケアというと、「緩和ケア病棟で提供されるケア」と勘違いされていた時期があったように思います。しかし、厚生労働省のがん対策推進基本計画でも強調されるように、早期(診断期)からの緩和ケアはとても重要です。

 診断期、治療期、寛解期、終末期など、患者さんの治療の経過により必要とされる緩和ケアの内容やスキルは異なるかもしれません。ですが、人々の尊厳や主体性を守り、全人的に対象を捉え苦痛を緩和するという緩和ケアの姿勢や理念は、すべての治療段階に共通して重要なことです。医療者間、さらには患者家族とも共有することで、患者さんの真のQOLの維持・向上につながると考えます。

 さて、今回は、治療期における患者さんの緩和ケアニーズに関する質問です。ナースが関わるポイントは、(1)治療効果が表れるまでの症状緩和、(2)治療選択への支援、(3)医療者とのコミュニケーションの円滑化——の3点に分けて考えることができます。順番に見ていきましょう。

(1)治療効果が表れるまでの症状緩和
 治療中の患者さんの状況はさまざまです。健康診断で指摘され、無症状のまま治療が始まるケースや、自覚症状があって生活もままならなくなり、やっとのことで受診し治療導入されるケース、そして、手術に引き続いて術後管理が必要となったり、抗がん剤治療を行うケースなどです。

 身体症状のない、一見無症状と思われるような患者さんであっても、治療選択に対する迷いや、癌という病の持つ恐ろしいイメージなどから、精神的に落ち込んだり、中には不眠症状を自覚している場合があります。「仕事や家庭内での役割が果たせなくなり、周囲の人々に迷惑をかけている」という辛い思いを抱えている人も少なくありません。患者さん自身の気持ちの整理や周囲の協力により解決していくことになりますが、その過程でナースが思いを聴き、利用できる社会資源をきちんと活用できているかなどを確認しながら、繰り返し関わっていくことが大切です。

 自覚症状で多いのは、痛みです。それにより歩くことが億劫になっていたり、医師の説明に集中できない場合があります。この場合、痛みによる生活上の支障や、痛みを積極的に緩和する必要性について患者さんと話し合っていきます。もちろん、治療によりその痛みが緩和することを期待して、「がまんできます」と言う患者さんもいますが、抗がん剤治療などの効果の確認には、月単位の時間が必要となりますし、中には、現状維持を目標に治療が計画されていることもあります。

 そこで、「治療により痛みが軽減した場合は、その時点で鎮痛薬を止めることができます」と患者に伝えつつ、鎮痛薬の使用を検討します。夜に痛みで目が覚めることがあるかどうかが、使用開始の一つの目安になると考えます。それがあると、痛みが気持ちにも大きく影響してくるためです。抗がん剤治療では、治療による有害事象もさまざま表れますから、不快な症状が緩和できることを患者さん自身に体験してもらうことは、治療を乗り切る上でも重要です。