質問
 癌の再発に対して抗がん剤治療を行っている患者さんから、「治療終了まで、家族との旅行や友人との外出はがまんしないといけないのか」と尋ねられました。医師の治療計画は、「効果が確認できる限りこの治療を続ける」となっています。治療を継続しながら、こうしたイベントを楽しんでもらうことは可能でしょうか?

回答者
梅田恵([株]緩和ケアパートナーズ代表取締役、がん看護専門看護師)


 有害事象(副作用)をはじめとする抗がん剤の影響は、薬剤使用中だけではなく、使用から数日後、数週間後とさまざまなタイミングで出現します。抗がん剤の種類によっても異なるため、生活上の注意は一様ではありません。

 抗がん剤治療では、有効性が担保されている標準治療を基準として、定期的コースを繰り返し受けます。そのため、仕事や旅行、家族のイベント(卒業式や入学式、受験、結婚式など)などとの折り合いの付け方について、戸惑いを抱く患者さんも少なくありません。生活上のアドバイスを行う看護師が、使用中の抗がん剤の特徴をよく理解し、患者さんと話し合うことが重要です。

 特に、再発や転移に伴う抗がん剤治療が行われている場合、治療レジメン(がん治療で使用する薬剤の種類や量、期間、手順などを時系列で示した治療計画書)が連続してしまうことがあります。気が付くと、患者さんは治療中心の生活となっており、自身の仕事や生活の楽しみなどを諦めてしまっていたり、楽しむことへの好奇心が失われてしまっていることがあります。

 もちろん、治療中、自由気ままに患者さんが行動計画を立ててしまうと、治療管理上、問題になりますが、仕事や生活を考慮した治療計画を検討する余地は十分にあります。医師の短い診療時間中には言い出せない患者さんもいるので、看護師が患者さんの思いや希望に関心を寄せることがとても重要になります。

 とはいえ、看護師も忙しく走り回っていて、特に外来では、一人一人の患者さんの生活について話を聴く時間も場所もないのが現状です。患者さんとのコミュニケーションを促進する体制づくりや、看護師のスキルアップが火急の課題です。

TS-1による治療中に旅行に出かけた一例
 ここで、看護外来で関わった進行期胃がんで肺転移のあるAさんの事例を紹介します。

 Aさんは65歳で仕事を退職し、妻との旅行を楽しみたいと計画していた矢先、がんと診断されました。TS-1(経口抗がん剤で4週投与、2週休薬を1コースとして繰り返す)による治療が開始されました。服用開始時の悪心嘔吐や下痢、さらに口内炎、食欲不振、味覚障害、顔・手足・爪への色素沈着などの有害事象への注意が必要なレジメンです。通院は2週間ごとと設定されました。

 治療開始時、本人から「通院の合間に旅行に行きたい」との希望が挙がり、どのように計画できるか話し合うことになりました。

 抗がん剤使用中は、有害事象が急に出現することもあります。仮に、遠方に旅行している最中だった場合、主治医のいる病院に連絡したり、旅行先の近くの病院で応急処置をしてもらうことで何とかなるケースが多いのですが、そのような不安体験は患者さんの行動を抑制し、治療の継続を困難にする要因になりかねません。一方で、抗がん剤治療中にも体力が落ちないように体を動かしたり、気分転換することは重要ですから、初回の1コースの間は、近隣の散歩程度とし、抗がん剤のコースを繰り返しながら行動範囲を広げていくことを提案しました。

 なお、旅行といっても色々あります。交通の便のあるお寺巡りなのか、人里離れた山歩きなのか、サーフィンなどハードな運動が含まれるのか、薬剤事情の異なる海外、天候の影響が大きな離島など……。まずはAさんのプランを聞き、不安を助長させないことに留意しつつ、実現を目指していることを伝え、有害事象の出現傾向やその対処、緊急時の病院への連絡などをどのように行うか、Aさんのセルフケア能力を確認しながら、効果的な楽しみ方について考えていきました。