Aさんは、初回の1コース目には下痢が2回あった程度で、順調に治療が進行し、下痢があった時にも電話連絡や受診もきちんと行い、妻の協力も良好でした。2コース目では薬剤の作用が重なりさらなる有害事象の出現も予測されましたが、セルフケア能力があり適切に対処できることや、旅行の計画が2泊3日程度の高原へのパック旅行であることから、医師とも話し合った結果、旅行に出かけてもらいました。
ただし季節は春。長時間日差しを浴びると顔の色素沈着を増悪させる要因となるため、帽子の着用や日焼け止めの使用を勧めました。また、温泉については、大衆浴場は細菌の宝庫であるため無理には入ってほしくない旨も伝えました。Aさんは、食欲不振や味覚障害が目立ってきましたが、旅先で珍しい食物を食すことを楽しみに、治療を続けています。
外来での患者支援を診療報酬上でも評価
がん治療中の患者さんのQOLを少しでも保ちながら治療計画が立てられるよう、診療報酬でも工夫が始まっています。がん患者指導管理料(旧、がん患者カウンセリング料)がそれに該当します。がん看護についての一定の研修を修了した認定看護師や専門看護師※1が、緩和ケアに関する研修(PEACE※2)を修了している医師からの治療説明に立会い、心理社会的サポートを行った場合、もしくは医師の指示に基づき面接を行った場合に算定できる報酬です。従来、がん看護に特化した活動が行えず、がん患者さんへの看護の質に貢献できないことへのジレンマを感じている認定者の声を聞くことがよくありましたが、診療報酬上の評価に伴い、それが可能になってきました。
がんの進行や治療の有害事象に伴う症状マネジメントもさることながら、患者さんの生活に関心を寄せ、患者さんの生きがい、そして社会や家族とのつながりを維持しながら、治療を支えることができれば、看護師のやりがいにもつながります。患者ニーズに応えるべく、がん看護の専門性を発展させていきたいものです。つい、情報提供や社会資源の紹介、関連部門や専門家の紹介といった関わりを看護に置き換えてしまいがちですが、こうした看護師の関わりの根底には、患者さんのQOLを維持すること、つまり患者さん一人一人の自律性を守るアドボケイトへの看護があることを意識しなければならないと思います。
もっとも、診断時や外来通院下において、医療者と患者さんとの接点には限界があるのも現状です。患者さんの思いを聴かせてもらうチャンスや、患者さんの主体性を尊重したいとの医療者の思いを伝えるチャンスは、意識しないと巡ってきません。
がんと診断された患者さんに話を聞こうとすると、「看護師さんは忙しいのではないですか?」や「話を聞いてもらっていいのですか?」と、看護師への遠慮とも期待のなさとも取れる反応にがっかりすることもしばしばです。がん看護の提供体制を発展させ、患者さんから呼び止められる看護師でありたいとつくづく思います。終末期だけに「緩和ケア」の考え方を適用するのではなく、常に患者さんの主体性、QOLを意識することが、ひいては終末期の緩和ケアの充実にも繋がっていくのではないでしょうか。
※1:「一定の研修を修了した看護師」に該当するのは、がん看護専門看護師、リエゾン精神看護専門看護師、がん性疼痛看護認定看護師、緩和ケア認定看護師、乳がん看護認定看護師、化学療法看護認定看護師、放射線療法認定看護師。
※2:PEACE(Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education):がん対策基本法のもと、2008年より日本緩和医療学会が厚生労働省委託事業として「がん医療に携わる医師に対する緩和ケア研修等事業」を行っており、そこで開発された医師向けの緩和ケアについて教育プログラム。
うめだ めぐみ氏●1987年京都市看護短大卒業、淀川キリスト教病院勤務、2000年専門看護師認定、昭和大病院勤務。09年に起業し、緩和ケアに関連した看護活動を、施設を超えて行う。昭和大病院・ナグモクリニック非常勤看護師、キャンサーネットジャパン理事。