中には、難しい状況もあります。特に、退院直後(退院から概ね1週間程度)です。多くの在宅医療従事者は、この短い間に患者と信頼関係(ラポール)を構築するのは困難です。この場合は、「怒鳴りつける」対象から外して頂きたいと思います。訪問頻度が訪問看護師より少ない医師の場合、なおのことです。

 ただし、1週間以内であっても、適切なアセスメントを行い、患者・家族の医療ニーズを十分把握し、提供可能な訪問頻度と利用料金の提示・説明を事前に行った上で、サービスをスタートすれば、信頼関係の構築は決して不可能ではありません。

 おんびっと訪問看護ステーションでは、今年2月のオープン以降、訪問看護を開始して1週間以内に亡くなった患者さんが2人いました。うち1人は在宅で亡くなり、もう1人は、事前の申し合わせにより、前週まで入院していた病院に緊急搬送され死亡の転帰を辿りました。いずれも、ご家族との関係は非常に良好だったと自負しています。その理由は、利用初日にアセスメントを行い、本人の状態と家族の希望を踏まえ、複数回訪問をほぼ毎日行っていたからだと考えています。

 訪問看護開始時、その2人の患者さんのご家族は共に在宅で看取る決断をしていませんでした。1人は緩和ケア病床の空待ちの状況でしたし、もう1人は翌週に再入院が決まっていました。患者さんご本人はモルヒネの影響で意識がもうろうとしていたので意向を確認できませんでしたが、ご家族はずっと迷っていました。そうこうしているうちに、あれよあれよと状態が悪化したため、特段決めていたわけではないけれどもなりゆきで最期を選択されましたが、結果として家族にとって納得いく最期を迎えることができました。

 一般的には1週間以内で信頼関係を構築することは困難ですが、方法によっては必ずしもそうとは限りませんし、ましてや1週間以上の期間が確保できているならばなおのこと、在宅医療従事者が患者・家族との信頼関係に基づいた療養環境を創り出さないといけないのではないのでしょうか。それをしないことには、質問にあったような無意味な救急搬送がいつまでも繰り返され、在宅医療に将来はないのではないか……とさえ思います。

 


つぼうち のりこ氏●1988年東京女子医大付属看護専門学校卒。同大付属病院、日本医大多摩永山病院などを経て、98年から訪問看護に従事。セントケア(株)訪問看護部次長、(株)ミレニア訪問看護サービス部長を務め、訪問看護事業所の立ち上げと運営・教育に携わる。2013年におんびっと(株)を設立。訪問看護ステーションへのコンサルティングや教育事業を手がけ、14年2月から訪問看護サービスをスタート。