自己満足になりがちな退院指導
インターネット上で退院指導について検索してみると、色々なノウハウが掲載されていますが、どれもこれもパッとしません。また、退院指導が病棟の日勤業務の中の一つとして組み込まれている様子も釈然としません。
夜間帯は体制的にナースの人数も減りますし、時間との勝負だということももちろん理解しています。が、しかしです。夜、仕事の後、駆け付けてくださるご家族もいらっしゃいます(連れて帰ろうと決意されたご家族ならなおさらです)。それなのになぜ、夜間帯に対応する柔軟さがないのか、疑問で仕方がありません。
そもそも退院指導は、「これから在宅で療養生活を送ろう」という、患者・家族の永久的もしくは一時的な決意の下で成立し、その内容は、患者自身がセルフケアとして行うものから、家族が代行せざるを得ないものまでさまざまなケースがあるのです。
以前、こんなケースもありました。大学病院を退院された30歳代の若い癌末期の女性です。小さいお子さんとご主人との3人暮らしで、退院時、皮下埋込型のポートが留置されていました。
当然のように入院中は「退院指導」という名の下、ご本人はカテーテルの抜き刺しやら保護の仕方などの指導を受けていました。ちょうど私が退院時カンファレンスで病院に出向いた際、病室でその光景を目撃したのですが、「そんながちがちなやり方を在宅で毎日やったら、ご本人・ご家族は疲れ果ててしまいますよ〜」と思わず言いたくなるような状況でした。
確か指導していたのは、新人か2年目くらいのナースだったと記憶していますが、正直「退院指導の目的が自分たちの“ヒヤリ・ハッと”回避にすり替わっているな……」と残念な感想を抱きました。病棟で作成しているマニュアルに沿って正しく指導されてはいたのですが、“遊び”の部分があまりにもなかったのです。
ここでいう“遊び”とは、例えば時間の感覚です。病棟では時間厳守でケアを行うのが前提でしょうから仕方ないのかもしれませんが、自宅では予定通りにはいきません。家にいれば何かとアクシデントが起こるものです。来客があったり電話が鳴ったり、お子さんがぐずってみたりと……。病棟に勤めていると、「この患者さんがこの空間(病室)ではなく、生活の場(自宅)に帰って、家族と共に過ごす中でこなしていかなければならない作業である」との認識で、退院指導を行うことはどうしても難しいのでしょうか。
ともするとナースの自己満足に陥りかねない退院指導。実は、入院中の責任として行うよりも、信頼できる訪問看護ステーションに一任した方が得策かもしれません。その方が在院日数も短縮できますし、何と言っても患者さんが少しでも長くお家で過ごすことが可能になります——と、退院調整を担っている病院ナースに、いつでも胸を張って働きかけていくことが、現時点で訪問看護師が果たせる責務かもしれません。
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つぼうち のりこ氏●1988年東京女子医大付属看護専門学校卒。同大付属病院、日本医大多摩永山病院などを経て、98年から訪問看護に従事。セントケア(株)訪問看護部次長、(株)ミレニア訪問看護サービス部長を務め、訪問看護事業所の立ち上げと運営・教育に携わる。2013年におんびっと(株)を設立。訪問看護ステーションへのコンサルティングや教育事業を手がけ、14年2月から訪問看護サービスをスタート。