質問
 卒後3年目の看護師です。現在、地方の大規模病院に勤めていますが、患者さんの入れ替わりが激しく、一人一人にじっくり関わることができません。訪問看護に興味があるのですが、臨床経験年数が少ない私でも務まるでしょうか?

回答者
坪内紀子(おんびっと[株]代表取締役)


 この手の質問をお待ちしていました!臨床経験のお話ですが、もしや「訪問看護は臨床経験5年以上のナースじゃないとダメ」と思っていませんか?結論から言うと、それはだれが言い出したか分からない(出所不明というやつです。何となく想像はつきますが……)、根も葉も根拠もない噂です。
 
 それなのに先日も、電話でとあるケアマネジャーから「訪問看護をする看護師はベテランじゃないとダメなのでしょう?どこかの訪問看護ステーションの管理者に言われたわよ!だから年配の看護師が多いのよね」と言われ、絶句しました。

 そもそも、「ベテラン」って、何年目からを指す言葉なのでしょうか?辞書で検索すると「長年の経験を重ね、その道に熟達した人」とあります。「長年」は「最低3年以上から10年くらい」を指すようですが、検索しても具体的な表記はありませんでした。いずれにせよ、年数だけ経ていても「その道に熟達」していなければベテランとは言えません。

 過去にいました。看護師歴は10年を優に超えてはいるけれど、患者とのコミュニケーションがとれないナース!人工呼吸器は見たくないらしく避けて通るナース!挙句の果ては、その患者さん宅に出入り禁止になるよう自ら仕向ける始末……。正直、その看護師はベテランからはほど遠い存在の方でした。

臨床経験の長さでなく、誠意や使命感の問題
 では、「その道に熟達している看護師」とはどういう人を指すのでしょうか?私が尊敬してやまない1世紀以上も前の偉人、フローレンス・ナイチンゲールは、自著『看護覚書』の中で次のように述べています。

 「よい看護婦は、患者に向かって『どう感じているか』『どうしてほしいか』といった質問など滅多にしない。しかし彼女は、『最新の観察や観察したことの検討などしなくとも患者が感じていることや欲していることが自分に分かって当然だ』などとは決して思っていない。これは、自分自身の場合でも他人の場合でも同じである」

 つまり、ナイチンゲールは、医師の視点とは異なる看護師特有の観察力(アセスメントする力)を磨くことで、患者に根掘り葉掘り聞かなくても患者ニーズが分かる、そういうナースを“よい看護師”と言っている訳です。これには経験年数は関係ありません。本人の力量次第と言えます。

 もっとも、臨床3年目であれば、そうしたスキルに自身のないナースもいるでしょう。でも、熟達にはまだほど遠いと感じても、俗っぽい言い方で恐縮ですが、熱意と誠意、そしていつか熟達できるようにとの志や使命感を持ち合わせている看護師ならば、臨床経験年数はそもそも関係ありません。前述のように、“1年目レベル”の仕事を何十年も繰り返しているだけの看護師も実在しますから……。

 訪問看護師というと、訪問先に一人で行って一人で判断しケアを提供するイメージですよね。それは否めません(むしろ私はそれが大好きなのですが……)。だからこそ「臨床経験が必要」との印象が先行してしまいがちですが、例えば当社では、患者ごとに個別の一連のケアが一人で提供できるようになるまで、先輩が同行訪問しています。また、初回訪問は管理者が行い、その上で、管理者が整備したさまざまな帳票類を手がかりに、個々の看護師は情報収集を行います。必要に応じてスタンディングカンファレンスも行いますし、いつでも管理者に連絡できる体制を整えています。

 要は、日々学んで行けばいいわけです。病院で3年間働いてきたのであれば、レベルの違いはあれど(観察に始まり観察で終わる)基本的な看護技術はお持ちでしょう。私はそれよりはむしろ、先に述べた患者さんに対する心からの熱意や誠意や使命感といったものが大切だと思っているのです。