質問
ケアマネジャーから、「すぐに訪問看護に入ってもらいたい」と依頼されることがあります。ですが、書類作成作業が煩わしいのか、規模の大きい病院の主治医ほど、訪問看護指示書をなかなか交付してくれません。しかも、やっと書いてもらった指示書は、正直、内容も不十分。現実はこんなものなのでしょうか……。
回答者
坪内紀子(おんびっと[株]代表取締役)
あります!あります!そういうこと……。私自身、とある総合病院の医師に訪問看護指示書の作成を求めたところ、「僕のお金にもならないのに、なんで書かないといけないの〜」と言われたことすらありますから(笑)。
訪問看護を行う上で、コンプライアンス(法令遵守)上、欠かせないのが、主治医が作成する「訪問看護指示書」です。インターネットで「訪問看護指示書等の書き方」を検索すると、数多くの検索結果で出てきます。が、どうでしょう?これまで何千枚もの訪問看護指示書を目にした私ですら、検索結果の内容をすべて網羅した指示書に出会ったことはほぼ皆無です。過去に一番大笑いしたのは、「緊急の連絡先」を記入する箇所に「妹さん」とだけ書かれてあった指示書を見た時です。
まれではありますが、かつて東京都の実地指導で「ここはこういう記載じゃないと……」と指示書の内容を指摘されたことがありました。私は、「何度、医師にご説明しても一向に改善されません。どうぞ行政の方で、医師たちに勉強してもらえるよう働きかけてください」と返答しました。その担当官は、「それは都の範ちゅうではないですね〜。厚生局か厚生労働省にどうぞ」とおっしゃいましたが……。つまり、訪問看護指示書は訪問看護を行う上で必要不可欠な書類ではあるものの(コピーでなく押印したもの)、内容自体はかなり形骸化しているというのが現状です。
医師は、患者の生活全体を見通してアセスメントを行うことに不慣れなためか、ターミナルの患者なのに、訪問看護指示書の「療養上の注意点」欄の記入がなかったり、「胃瘻からの栄養剤注入」など画一的な指示内容も目立ちます。中には、毎回同じ内容の指示書を月を変えてプリントアウトするだけの医師もいます。
訪問看護先進国の米国では、かかりつけ医が訪問看護の必要性を判断するのですが、その際、かかりつけ医が行うアセスメントは実に緻密です。例えば、家族の介護力を評価し、「この家族の介護力があればライン類を挿入したまま帰っても、訪問看護は不要」といったところまで医師が患者を細かくアセスメントするのです。
ちなみに米国の場合、訪問看護側にも非常に厳しい評価システムがあります。個々のステーションのADLの改善率や、創傷関連ならばその治癒率、救急リスク回避率などが、すべてオンライン上に公開されているのです。ランキング上位を獲得すれば、質の高い訪問看護とみなされ保険会社や医療機関からのオファーが殺到するので、それを目指して皆一丸となって動くわけです。
話がそれましたが、米国ではわが国のように、主治医から訪問看護指示書がなかなか発行されなかったり、「指示書に何を書けばいい?」と訪問看護師が聞かれるようなことは決してありません。このように運用が厳格ですと、それはそれで訪問看護の裁量や自由度が奪われてしまい、かえってやりにくい側面もあるのですが、日本の医師に対しては、患者の訪問看護指示書をどうせ書くなら、もう少し主治医としての思いを込めて頂けないのかしらと思ってしまいます。
もっとも、今回の質問については、主治医だけに否があるわけではありません。訪問看護を必要としている患者がいるのに、看護師は訪問看護指示書を待っているだけでいいのでしょうか。