指示書がなければ何もできないの?

 以前にも、こんなことがありました。

 ある訪問看護師(管理者)が何か会議の席上で「主治医が訪問看護指示書をなかなか交付してくれないから、訪問に行きたくても行けないのよ〜」とぼやいていました。私が、「なぜ?原則はそうだけれど、早急に対応してもらいたいとの要望があるなら、まずは行ってみればいいじゃないですか。最悪、訪問看護指示書は、翌月10日必着の診療報酬や介護報酬の請求日までに授受さえできればいいんですから……」と言ったところ、「何をすればいいのか分からないから……」との返事。

 「そこかい!!」と思わず突っ込みたくなりました。看護師としてのアセスメントが困難な方なのだなとの認識を持ちました。そのようなナースには、患者・家族と主治医の間に立つという立場が取れない可能性が潜んでいます。

 例えば、「入院は死んでも嫌だ!」と、心の底から患者本人や家族が思っているにもかかわらず(ターミナル期の方ならなおさら)、主治医がやたら入院を勧めるケースがあります。そんな時、患者・家族に身近な存在である訪問看護師は、断固阻止しなければなりません。そして、もういよいよ望みが叶えられないと思った時には、患者・家族に主治医の変更を勧めることだってあります。

 ですが、アセスメント能力の乏しい看護師であればあるほど、医師の指示を全面的に疑うことなく支持し、患者や家族から、医師の指示とは真逆の反応や要望があったとしても、「先生がこうおっしゃっているのなら、そうするしかないですね」という立場に終始立つ傾向が否めません。残念なことに、これはよく耳にする話です(別の訪問看護ステーションを利用していた患者・家族から耳打ちされることが、これまでも多々ありました)。

 フローレンスナイチンゲールも言っていますよね〜。「自分自身は決して感じたことのない他人の感情のただ中へ自己を投入する能力を、これほど必要とする仕事はほかに存在しないのである」と。これこそ、看護に求められる本来の役割だと私は思います。

 「在宅医療にとって、医者はただの飾り。処方箋を書いたりはするけれど、日々関わっている看護師が何よりも理解しているよね。訪問看護師によってしか在宅は成り立たないよね〜」

 かつて、訪問診療を行っているある医師から、こう言われたことがあります。この言葉が鮮烈な記憶となって、今の私を支えているといっても過言ではありません。よく、一般の人から、「訪問看護師にとってタッグを組んだ時、非常に助かるのはどんな医師か?」と質問を受けることがあるのですが、上記のようなスタンスで関わってくれる医師と連携したいとお答えしています(残念ながら、そんなにはいないとの認識ですが……)。

 訪問看護指示書それ自体は、あくまで訪問看護業務を行う上で最低限必要となる書類であり、主治医が記載に不慣れというのであれば、指示期間だけ明記して署名・押印して速やかに返送してさえ頂ければ、最悪、それでも構いません。それよりむしろ大切なのは、互いの専門性を認め合う医師と看護師の間の関係性ではないでしょうか。

※本コラムでは、読者の皆さまからの質問を募集しています。訪問看護に関する現場の悩みにエキスパートがお答えします。投稿はこちらから。お待ちしております!


つぼうち のりこ氏●1988年東京女子医大付属看護専門学校卒。同大付属病院、日本医大多摩永山病院などを経て、98年から訪問看護に従事。セントケア(株)訪問看護部次長、(株)ミレニア訪問看護サービス部長を務め、訪問看護事業所の立ち上げと運営・教育に携わる。2013年におんびっと(株)を設立。訪問看護ステーションへのコンサルティングや教育事業を手がけ、14年2月から訪問看護サービスをスタート。