質問
病院を辞めて訪問看護に転職したばかりの看護師です。悩みというより愚痴ですが、仕事を始めて、訪問看護の報酬体系につくづく疑問を感じています。重症者も軽症者も基本料金は一律。病院では看護必要度のチェックを習慣的に行っていましたが、訪問看護にはそういう仕組みは存在しないのでしょうか?
回答者
坪内紀子(おんびっと[株]代表取締役)
おっしゃる通り、訪問看護の世界には、病院で言う「看護必要度・重症度」のような、患者の重症度を評価する指標が存在しません。訪問看護には、ここにしか存在しない“面白い”料金体系があり、そもそも、サービスを提供する上で患者の重症度を考慮する必要がほぼないのです。私の得意とするところなので、詳しく説明しましょう。
ケア内容は報酬に反映されず
訪問看護には、介護保険による訪問と医療保険による訪問の2種類があります。前者は、65歳以上の要介護認定を受けた高齢者と、一部病名によって40歳以上の人に適応されます。一方、医療保険は、要介護認定されていない高齢者のほか、すべての年齢の人が対象となります。
料金体系を見てみると、介護保険の場合は、「20分未満」「20分以上30分未満」「30分以上60分未満」「60分以上90分未満」というように、1訪問当たりの時間によって「単位」が決まっており、それに地域ごとに設定されている「単価」を掛け合わせて計算します。例えば、「30分以上60分未満」の訪問の場合、単位は843で、東京23区にある訪問看護ステーションであれば、それに11.26円(単価)を掛け合わせた9429円が、1訪問当たりの料金となります。さらに、HOT(在宅酸素療法)や尿道留置カテーテルなど「管類」が入っていると、月に1回、250単位もしくは500単位を上乗せできたり、利用者がオプションで緊急対応を希望すれば、1カ月当たり540単位が加算されたりするのです。
一方、医療保険では、時間の区切りはほとんどなく(旧老人保健法の時代は、『1回に最低30分くらいは滞在しなさい』と国から言われていましたが……)、また、病院などの診療報酬のように点数表記ではなく、なぜか昔から円表記です。ベースとなる報酬は訪問看護基本療養費で、週3日までは5550円、4日目以降は6550円です。医療保険での訪問は原則週3日までですが、がん末期や神経難病など厚生労働大臣が定めた19の病名に該当する患者や、人工呼吸器装着中や急性増悪により医師が連日訪問の必要性を判断し特別訪問看護指示書を発行した患者では(現実には、訪問看護師側から医師に指示書を要請することが多いのですが……)、週3回の上限が取り払われ、患者によっては1カ月に最大93回の訪問が可能になります。
このほか、訪問看護指示書の授受などコンプライアンス(法令遵守)上の要件を満たしたステーションは訪問看護管理療養費を算定できます(初日のみ7400円、2日目以降は2980円)。そのほか、24時間対応や退院時指導を行った際などに算定できる様々な加算もあります(介護保険にもこれらと同様の加算が存在します)。
ちなみに、介護保険でも医療保険でも、利用者が亡くなった場合には、手厚い終末期ケアを行った場合など一定の要件を満たせば、ターミナルケア加算(療養費)が算定できます(1回当たり約2万円も)。ですが、実はこの加算は要介護者にしか算定できません。要支援レベルの方が肺炎の急性増悪などで突然亡くなる場合も多いのに、つくづくおかしなルールだと感じています。役所のお偉い方々は、要支援者は急に死なないとでも考えているのでしょうか。