業務の見直しで訪問件数はまだまだ増やせる
そもそも、「看護師の負担が少ない訪問件数」という発想自体、どうなのでしょうか。仕事には常に緊張感や責任を伴い、負担のない仕事などこの世に存在しません。「教育の仕事は別として、世の中で看護ほどに、その仕事において『自分が何をなし得るか』が『自分がどのような人間であるか』にかかっている職はほかにはない」というフローレンスナイチンゲールの言葉からも分かるように、看護の仕事に負担はある意味付きものです。
「67件」の詳細は分かりませんが、どこの事業所でも恐らく最も算定が多いであろう介護保険の「訪問看護I3」(30分以上60分未満のサービス提供)で試算してみると、この件数の場合、1カ月の実働は67時間となり、これは1カ月の総就業時間(1日8時間勤務、休日を8〜9日と仮定した場合168時間)の約40%にしかなりません。
では、残りの60%は何をしているのでしょうか?訪問看護では利用者宅に出向かなければなりませんが、さすがに1カ月に101時間も移動している訪問看護師は存在しないでしょう。仮に67件全ての移動時間が片道30分だとすると、1カ月の移動時間は33.5時間となります。
とすると、訪問と移動時間を差し引いた残りの67.5時間は、訪問看護師は何をしているのでしょうか。方々の事業所で耳にするのは、「訪問看護計画書、訪問看護報告書、サマリーの3点の作成に毎月時間を費やす」というセリフです。仮に67件が全て異なる利用者だとすると(実際にはあり得ませんが)、なんと、利用者一人当たり1時間も、これら3点セットの作成に費やしている計算になります。私は、こうした業務時間の配分は非常にナンセンスであり、計画書や報告書の作成などに関する業務の見直しが必要だと思います。
当社の場合、計画書は管理者である私が毎月一人で作成しています(評価も含めて)。理由は明らかで、当社は担当制ではなくチーム制を敷いており、「患者へ提供するケアの保証の全責任は管理者にある」と考えているからです。
報告書については看護師に手書きで書いてもらっています。請求ソフトの利用料金がログイン人数に応じて変わるため、その利用を極力制限したいという内情もありますが、それ以上にパソコンが苦手もしくはできない看護師が多いためです。報告書はその月に最低1回〜最大で93回訪問した時の要約でしかない訳で、それ以上のことは何も書けませんし、それ以前に、書くことが苦手な看護師が相当数いるというのもまた実情です。個人の能力なので仕方ない面もありますが、筆の遅いスタッフに対しては、日々の訪問時に情報収集を看護記録からきちんと行い、ひねってみたところで出てこない専門用語を並べようとせずに、事実を記録するよう伝えています。ましてや、計画書・報告書は月に1回だけのイベント的なものですから。
このように事務作業を効率化することで、1日の訪問件数はもっと増やすことができますし、それに伴って収益増も見込めるわけです。
ちなみに、上記の想定の中に「日々の看護記録の時間が入っていない!」と思われる読者もいるかもしれませんが、これについては訪問時間内に利用者宅で記載してもいいわけです。ステーションに戻ってから書こうとすると、記録自体よりも、その日にあったことを振り返ることに案外時間を費やしてしまったりもします。
私自身、今年2期目のステーションを経営していますが、例えば、患者ごとの全身アセスメント(「生活背景や介護状況などのアセスメント」「頭部・体幹部・栄養・皮膚・ADLごとのアセスメント」など、患者の全体像を捉えていくための手掛かりになる、独自に作成した28項目)やそれと連動した形のチェックボックス式の日々の看護記録およびケア表(計画書よりも詳細な手順書的なもの)など、これまで記してきたものをフォーマット化して、オペレーションの仕組みを組み立てながら『事業は存続させること』を実現していくため奮闘しています。工夫できることはまだまだたくさんあります。同じ経営者として、共に頑張りましょう。
※本コラムでは、訪問看護の運営に関する質問を募集しています。投稿はこちらから。お待ちしております!