質問
介護職出身の経営者です。2005年に訪問介護・居宅介護支援事業所を開設しており、利用者様のニーズの高さから2015年春ごろに訪問看護ステーションの運営も始めました。ステーションの管理職経験もある訪問看護歴10年の管理職をはじめ、精鋭メンバーがそろっていると開設当初は思っていたのですが、先日急に会社(つまりは私)との意見の相違ということで、雇用している全看護師4人から一斉に退職希望が出ました。利用者からのクレームも多かったですし、利益も一向に出なかったので、訪問看護事業を継続するか、このまま事業をやめるか、悩んでいます。どうすればよいでしょうか。
お気持ちお察しします。希望に満ちて訪問看護ステーションの開設に至ったのでしょうから、残念な思いで、さぞかしつらい夜をお過ごしになったことでしょう。私自身が看護師なので非常に申し上げにくいことではありますが、介護職出身の方が経営者として看護師を「取り扱う」のは非常に困難なことです。一般の、例えば不動産屋さんのオーナーを長年務めていらした方でも看護師の雇用に苦労したケースを知っています。
私は今までに数多くの訪問看護ステーション立ち上げや、開設後10年以上経過してからの仕切り直しにかかわってきました。今回は、これまでの経験を交えて、医療職以外の経営者が 看護師を職員として雇用するのがなぜ困難なのか、そして、トラブルになりやすい看護師を雇用しないために、経営者はどこに気を付ければよいのか、お伝えしていきます。
まず、看護師はいまだ売り手市場で、どこでもすぐ就職できる状況にあります。その上、特に病院の勤務経験が長い場合、看護師は、目の前の患者のことだけを考えて仕事をしていればよいという環境に慣れてしまっているのです。
そのため、残念ながら看護師は数字に弱く、コスト意識に欠けている方が少なくありません。訪問看護ステーションは、病院と比較して事業所の規模は小さいですし、看護師一人ひとりが自分の訪問件数を意識したり営業活動を行うなど、日ごろから経営意識を持って働かないと成り立たない世界なので、これは経営者にとってかなり厳しい問題です。
「命ってそんな軽いものじゃありません!」が常套句
特に注意したいのは、「看護はお金でははかり知れませんから〜 」 が口癖の看護師。こうした看護師は、備品や衛生材料をやたらと多く発注してしまいます。また、経費を考えずにコピーをどんどんとったりするのも特徴です。
また、「患者至上主義」で命をすぐ引き合いに出してくる看護師も要注意です。面接時に、「これまで印象に残っている場面は?」と聞いてみると分かるかもしれません。そこで「○○の病気で○歳の方の最期がとても印象的で…」なんていう長い話が出てきたら、警戒しましょう。
そんな看護師は、医療現場をよく知らないオーナーが「コスト面をもう少し考えるように」などと経費節約や営業利益などの話題を持ち出した際には必ずこう言います。「命ってそんなに軽いものじゃありません!」。命を引き合いに出されてしまうと、福祉職は直接関わっていない方も多いですし、ましてや一般職のオーナーには太刀打ちできなくなってしまうのです。
実際に、私が以前経験したケースを紹介しましょう。お亡くなりになった患者さんの四十九日が過ぎたころ、看護師3人が仕事を2時間ほど勝手に抜け出し、花束を持って元利用者宅へ行っていたことがありました。もちろん、花束代5000円は経費として請求してきましたし、正社員の看護師3人の2時間分の人件費を考えると、優に1万円は超えてしまいます。ステーションとしては総額1万5000円超の経費が発生しているのですが、当の看護師たちは「思い入れのある患者さんだったから」と平然としていました。