今回の教訓

 今回のケースで院長は、「A男も大の男なのだから」ということで、あえて厳しく対処しなかった。スタッフの自主的な改善に期待したいという院長の思いは理解できるが、勤務態度の問題が見え始めたときに早めに手を打っておかないと、問題が大きくなってしまうこともあるので要注意だ。今回は男性職員が1人だけということで、更衣室を兼ねた個室を与えたが、その利用に関して当初から、利用時間・目的など一定のルールを作っておいてもよかっただろう。

 また、「だらだら残業」や、仕事をせずに故意に居残りをするようなケースへの介入も重要なポイントになる。A男のタイムカードの打刻は19時くらいが多く、1日1時間程度の残業になっており、その間はお茶を飲んだり雑誌を読んだりしていたようだ。いったん打刻をした後、21時くらいまで部屋内に残っていた。院長は、残業代はタイムカードの打刻通りに支払っていた。

 今回、Fクリニックでは全職員を対象に残業の「申請制」を導入したが、これは、「だらだら残業」や、仕事を伴わない居残りを防ぐ上で効果がある手法だ。ただ、他の職員から見れば、「A男のせいで面倒な制度が導入された」ということで不満の種になりかねないので、導入の趣旨や、仕事を効率的に進められるようにするための改善策など、院長がしっかり説明することが求められる。

 なお、職員トラブルがあると、本人の親からクレームの電話がかかってくることは、最近では珍しくなくなった。そうした場合に、親に対する気兼ねから本人への指導を手加減してしまうと、他の職員からの信頼を失うことにもなりかねないので注意したい。
(このコラムは、実際の事例をベースに、個人のプライバシーに配慮して一部内容を変更して掲載しています)

著者プロフィール
加藤深雪(特定社会保険労務士、株式会社第一経理)●かとう みゆき氏。日本女子大人間社会学部卒業後、2003年第一経理入社。企業や医療機関の人事労務コンサルティングを手掛け、中小企業大学校講師や保険医団体の顧問社会保険労務士も務める。