——具体的にはどのような転職活動をされたのですか。
僕が希望したのは、日本人が経営する海外の病院でした。そこで、インターネットに掲載されていた連絡先に自分で電話し、先方の社長に直接会って話をさせてもらいました。日本国内のオフィスで2、3回会ったでしょうか。初めて会ったときから数えて4、5カ月後に内定をもらいました。
——どのような病院だったのですか。
来院するのは基本的に現地に住む日本人で、医師は僕を含め4人体制。現地の医師が2人に、日本人2人で、僕が最年少でした。医局にいたころ、最後の年の年収がバイトを含めて、手取り約1500万円。これが、この転職で約1000万円に減りましたが、現地の物価も安く、住まいも用意してくれていたので、特に不満はありませんでした。
日々、カルチャーショックの連続でしたね。医師としてだけでなく、人間として成長する上でもたいへん勉強になりました。
——それなのに、急に「辞めてくれ」と言われたとは?
当初の話では、2〜3年は勤務してほしいと言われていたので、僕自身もそのつもりでいました。しかし、いきなり「1年で辞めてくれ。この3月まででいいから」と宣告されました。そのとき既に1月半ば。社長が医師ではなかったためか、経営方針をめぐり衝突することも多かったので、急な退職勧告の理由は、恐らくそのせいではないかと想像できました。正直なところ、社長に対して言いたいことは山ほどあったのですが、とにかく次の就職先を探すことに精一杯で、争っている時間などありませんでした。
——突然、退職を勧告されて、2回目の就職活動はどのようにされたのですか。
とにかくまずは日本に帰ろうと思い、今回は医師紹介会社を通して転職活動をしました。自力でやるにはあまりに時間がなかったのでものですから。
転職先は無事に見つかり、現在は、あるクリニックに“雇われ院長”として常勤勤務しています。つい最近開業したばかりなのですが、僕は開業の準備段階から立ち会うことができました。将来自分の医院を開きたいと思っていますので、今回、貴重な経験をさせてもらったと思っています。現在の年収はほどほどですが、特に不満はありません。
——自力で転職先を探すのと、医師紹介会社を利用するのとではどちらが良いと思いますか。
自力でやるメリットは、自分でアピールできるところでしょうか。それに医師紹介会社に支払われる高いマージンがばからしいと思ったんですよ。紹介会社を通さずに行けば、マージンが必要ない分、給与に上乗せしてくれるのではという期待も多少ありました。
逆にマイナス要素としては、すべて自己責任になるということです。海外で働いていたときも、2〜3年間の契約のはずが1年で辞めるはめになった。これに対してもいわば“泣き寝入り”ですからね。ただ、そういう事態が起きたときに、紹介会社がどこまでフォローしてくれるのかは僕には分かりませんが。
——転職を希望している方に何かアドバイスはありますか。
若いうちは医局の指示通りに動いても、それぞれの病院でいろいろなことを学ぶのは大事だと思います。しかし、その先、医師としてどう生きていくかがとても大事だと僕自身は思っています。医局は医師1人ひとりのキャリアプランや生活設計まで面倒を見てくれませんからね。ものすごく優秀な人なら話は別かもしれませんが、関連病院をただ回っているだけでは生活は安定しないし、医局の勢力を示すコマとしてある意味使われるだけです。
だから、思いきって医局を飛び出すのも手ではないでしょうか。実際に転職してみると、大変なこともありましたが、僕自身は医局を出て良かったと思っています。今はやりたいことができていますしね。医局にいるときは、どこかでやらされ感がありましたけど、今は自分の意思で主体的に動いているという実感があります。自分の人生なのですから、自分のやりたいようにやった方がいいと思いますよ。